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『父と娘のホッピー戦争』オガワヤス

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 外回りで冷えた池本明彦の体は、満員電車の熱気ですっかり温まっていた。帰宅ラッシュのすし詰めから解放され、身も心も軽くなり、さっきまで明彦を苦しめていた外の冷気が心地よく感じる。帰り道は特に急ぐ必要もなく、通勤時とは比べ物にならない速度でゆっくりと歩いた。
「どこかで一杯飲んでいくかな」
 空腹と喉の渇きで、駅前の店たちがいつもより魅力的に映る。視界に入る飲み屋をふるいにかけながら進んでいると、ふいに呼び止められた。
「池本さん」
 聞き覚えのある声だ。振り返ると、田代実が小走りで近づいてきていた。
「あー、田代さん!」
 娘の同級生の父親で、二人はいわゆるパパ友という間柄だ。娘たちが通う保育園で知り合い、以来、10年の付き合いになる。二人姉妹のパパである田代は明彦より年上で、2歳しか違わないが一番上の子は今年成人式を迎えた。パパ歴の長い田代は、一人娘を持つ明彦にとって何かと頼りになるパパ友だ。
「どう、一杯?」
「いいですね。僕も目論んでいたとこなんですよ」
「よっしゃ!」
 さっきまではどの店に入ろうか迷っていた明彦だったが、田代と一緒となると話は別だ。二人で飲むときの定番の飲み屋があり、何の話し合いもなく男たちの足はその店へと向かいだした。
 テーブルに案内されるや否や、二人はメニューも見ずに注文を始めた。まずは飲み物だ。一応後輩の明彦が率先する。
「じゃあ、ビール二つ」
「あ、ちょっと待って。ホッピーありましたよね? 僕、ホッピーのセットで」
「え、珍しいですね。いつもビールしか飲まないのに」
「ちょっとね」
 そう言って田代は笑みを浮かべた。どこか照れくさそうだ。なんだか意味深で、明彦は「これはあとで聞かないといけないやつだな」と秘かに思った。いったん、そのままつまみをいくつか頼み、「とりあえずそれで」と締めくくった。
「やっぱ金曜だから混んでるね」
 田代の言葉に周りを見ると満席だった。皆、一週間の頑張りを労っているのだろう。のびのびと楽しそうに飲んでいる。心地よい賑やかさのなか、明彦は尋ねてあげた。
「なんでまた今日はホッピーなんですか?」
「え?」
 話を聞いて欲しそうな「え?」だった。真ん丸とした田代の笑顔が人懐っこく、話を深追いしたくなる。
「いや、実はさ」

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