元女の子が語る。経験者の言葉には説得力がある。だが明彦にとってはやはり悲しい。
「でも、田代さんのとこはそうでもないっぽいんだよ」
「そりゃあ人それぞれだもん。思春期のまっただ中なのに父親とお風呂入る子だっているんだし」
「そうだよな、十人十色だよな」
「こればっかりは誰にでもあるものなんだから、気にしないのが一番だよ」
今夜はみんなが慰めてくれる。明彦はしみじみしながらホッピーをグビリと飲んだ。
「私も一口ちょうだい」
明彦は「お前の一口ちょうだいが欲しいんじゃないんだよ」と胸の内で愚痴った。
「どうぞ」
智子は味見がてら一口飲むと、思っていた以上に美味しかったようで全部飲み干した。
「ちょっと。俺の酒だよ」
「美味しい!」
そう言ってもう一杯作りだした。
「美味しいんだね、ホッピーって」
「田代さんが買ってくれたんだよ」
「へー」
明彦は今日の顛末をひととおり話した。
「なるほどねー。田代さんとこは娘との関係が良好なんだ」
「そう。羨ましいよ」
「さっきも言ったけど、人それぞれだから。よそはよそ、うちはうち」
智子がまったくグラスを手放そうとしないので、明彦は諦めてもうひとつグラスを用意した。自分の分のお酒を作りながら、ホッピーに話しかける。
「なあホッピー。どうしたらしおりと仲よくなれるのかなあ」
「時間が解決してくれるから焦らないの。私があの子の頃はもっとひどかったよ。やっぱ父親にはねえ。ほんと、しおりより口汚く罵ったもん。まだマシだよ」
「え、そうなの? どんなことお義父さんに言ったの?」
「聞かないほうがいいよ」
「え……」
「中学までに覚える罵詈雑言を全部言った」
「うわー。でもさすがに父親の保険金の額は気にしないだろ」
「あれは内心、笑ったねえ」
「おもしろがらないでくれよ」
「ま、経験上、あと2~3年もしたら落ち着くよ。私の血を引いてるから、たぶんその頃には大丈夫」
話を聞きながら明彦は、しおりの激しい罵りは智子の遺伝で間違いないと踏んだ。もちろんおくびにも出さない。
「パパは優しいからさ、しおりに何にも言えなくなっちゃうけど」
本当に時が経てば仲の良い親子になれるのだろうか。明彦にはまったく想像できなかった。
明彦の家では晩酌のお酒がすっかりホッピーとなった。しおりがリビングにいるときは、これみよがしにホッピーを利用して良いパパアピールに励んだ。だが、しおりも負けない。
「ホッピーは他のお酒より安く済むからなー。お金節約して、家族旅行しような」
と言えば、
「じゃあそもそも飲まなきゃいいだろ」
と、しおり。黙る明彦。