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『思いのままに』緋川小夏

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「お、ホッピーがある」
 熱いおしぼりで手を拭きながら、壁に貼られたメニューを見た先生が嬉しそうに言った。
「ホッピー? そう言えば初めて飲みに連れて行ってもらったときも、先生ホッピーを飲んでいたよね」
「そうだったっけ」
「そうだよ」
 初めて好きになったひとと初めて一緒に飲んだお酒だもの、忘れるはずがない。アルコール初心者だったわたしはビールで乾杯だけして、後はずっとウーロン茶を飲んでいた。先生はその隣で、焼酎をホッピーで割って美味しそうに飲んでいた。
「親父がホッピー好きでさ、家でもよく飲んでいたんだよ。昔はビールって高級品だったから、値段の安いホッピーはその代用品だったんだって」
「へぇ」
「ホッピーは庶民の味方だって、親父の口癖だった。そのせいか僕も時々、無性に飲みたくなるときがあるんだよね」
「……それじゃあ、わたしもホッピー飲んでみようかな」
「よし! それじゃあ今日はホッピーで乾杯だ」
ホッピーと料理を注文してしばらくすると、焼酎の入ったジョッキとホッピーの瓶が二つずつテーブルに運ばれて来た。
「これが『中』で……」
 そう言いながら先生が焼酎のジョッキをわたしの前に並べた。
「これが『外』でしょ?」
 ホッピーの瓶を指差して、わたしが言う。
「正解」
 二人で顔を見合わせて小さく笑う。なんだか悪いことを企んでいる共犯者みたいだ。
「焼酎1に対してホッピー5が黄金比率なんだって」
「わかった。焼酎1に、ホッピーが5ね」
 わたしは言われるままに、ジョッキにホッピーを注いだ。淡い褐色の液体がシュワシュワと音を立てている。さっそく一口飲んでみた。
「あ、美味しい」
 ホップ特有の芳醇な香りが口の奥から鼻へと抜けてゆく。ホッピーは思っていたよりずっとマイルドで、お酒があまり得意ではないわたしでも飲みやすかった。
 好奇心から、ホッピーの瓶に直接口をつけて味見してみた。味はほとんどビールと変わらないような気がする。ラベルの表示を確認すると、アルコール度数は0.8度と書かれてあった。
「ビールの原料でもあるホップを使った『本物のノンアルコールビール』って意味から『ホッビー』になって、そこからさらに言いやすい『ホッピー』になったそうだよ」
「よっ、ホッピー博士!」
 わたしがふざけて声を掛けると、先生は照れ臭そうに頭を掻いた。
「まあね。全部、親父からの受け売りだけどね」
 そこまで話して、また会話が途切れた。
 わたしは冷奴をお箸の先で崩しながら、次の言葉を探している。先生はジョッキを煽る手を止めて、壁に貼られたメニュー表をぼんやりと眺めていた。

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第6期優秀作品一覧
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