声を張ったが反応はなかった。そして、視線の合ったまま、フリフリの衣装は、胸元のリボンを垂らしながら、今、目の前を運び出されようとしている。彼女は、哀れな細い手を先生の方に伸ばすのだった。
「……助けて」
担がれたままの彼女が、自分の前を通るというそのとき、先生は思わずその細い手を掴んでいた。彼女の存在を、自分の了解する世界内に取り戻そうと思ったのだ。
「隊員さん、待ってください。ユウキちゃん、ほら、目を覚まして! 二人で甲子園に行こうって約束したでしょう」
彼女は、先生の目を見つめながら、再び切ない声を出した。
「……○○○くん、助けて」
知らない名前だった。
マスターはやれやれという顔で、まだ現役で活躍している『Z』のリーダーの名前だよ、といった。
先生は、萎れた花を捨てるようにして、掴んでいた細い手を離した。
泣いてなどいないはずなのに、涙がぽとりぽとり、床に落ちるのだった。