これが告白をためらう男子であったなら、女子は焦れったいこと限りない。自分が好きな男子でないならば、この焦らされ具合に愛想を尽かす女子もいるだろう。
硬直状態を維持していた七尾であったが、ふいにジョッキの中の透明な液体を半分ほど喉に流し込んだ。
喉から下へ焼けるようなジュワっとした感覚が貫く。小さな火の塊を飲んだような感覚に襲われ、驚きのあまり七尾は目を見開きまっすぐ前を見つめた。
またも始まる硬直状態。頬がじんわりと熱くなってくる。
十分経過。
勢いに任せ茶色の瓶の液体を三分の一ほど飲む。口に広がる何とも言えない苦味。両頬の筋肉が上がる。
あっという間に済んでしまった飲酒体験。ちぐはぐに済んでしまったため、煮え切らない感覚である。
ファーストキスでいえば唇をかすめたキスをされたような気持ち。
納得いかない気持ちの七尾はやけになりながら、ジョッキに茶色い瓶の液体を乱雑に放り込んだ。
さっき瓶から直に飲んだ時には気付かなかったが、茶色い瓶の中の液体には炭酸が含まれており、ジョッキにシュワシュワという爽快感のある音がほのかに響いた。
液体を混ぜ合わせると、黄金色の美しい液体がジョッキ内に現れた。じっくり眺めていると、その美しさに魅了され、七尾はその液体からしばらく目を離すことができず、飲むことを忘れていた。
やけになった気持ちも収まり、じっくり「ホッピー」と向き合ってみることにした。ずっと緊張していて冷静さを失っていたが、よくよく考えるとジョッキと瓶が運ばれてきた時点で、この二つを混ぜて飲むのだということに今になって気付いた。
気を取り直して、ジョッキに口を持っていき、大きく一口流し込んだ。ほどよい苦みと清涼感が口中を駆け抜けていく。
「ゴクン」
一気に飲み込むと心地よい喉越しが迎えてくれる。七尾はなんともいえない幸福感を感じていた。
「にいちゃん一人か?辛気臭いし一緒に飲もや」
七尾が幸福感に抱かれながら頬を祠ばせていると、突然隣の席で飲んでいたおやじ二人が声をかけてきた。予想だにしない出来事に七尾はどうしていいのやら分からず戸惑っていたが、おやじは二人、息を合わせて手際よく自分達のテーブルを七尾のテーブルに寄せてきた。
「今日はどないしたんや。友達は?」
おやじは七尾の返事を待たず、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。地元の奈良では初対面の人がこんなにも早く距離を縮めてくる人はいなかった。
ふいに起こった出来事に戸惑い、七尾が質問に答えずにいてもおやじは気に留めることはなさそうであった。
「そやけどあれやな。こんな若い子が一人で来てるて珍しいなぁ。」
今度はおやじ同士で話し始める。
おやじが隣で飲み始めて五分ほど経った時、七尾は声にならないような声でぼそっと
「初めてです。」
と呟いた。返答もろくにせず黙っていた青年がふいに声を発したため、二人で話していたおやじの四つの目が七尾にいっせいに注目した。