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『はだかの跳躍』中山優輝

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 七尾は一人、席に佇んでいた。

 騒がしい店内、酔っぱらいのおやじ達。おやじを眺める店員の姿。その雰囲気に七尾は完全に飲まれていた。大阪の新世界。友人達からかねがね噂を聞いていたそのディープな場所に行ってみたい。その一心で電車に揺られること一時間。奈良の山のふもとからこの地に降り立った。
 奈良の山は雪に覆われている季節であり、衣服を着込んできた七尾は歩くたび体の熱が高まり、その体温に煩わしさを感じ、厚手のコートを着てきたことを少し後悔していた。
 時間は午後五時。夕食時の混雑を見越して、少し早い時間に店に入ろうとなりふり構わず赤い提灯が目についた店に飛び込んだ。だが、店内はすでに赤ら顔のおやじで溢れていた。初めての一人居酒屋に、緊張している七尾には目もくれない店員に促されるまま、陽気なおやじ達のそばをぶつからないように歩き、店の奥にある二人掛けの席に案内された。
 椅子を引くなり七尾は膨れ上がった様相のダウンコートを背もたれに掛け、じわっと温まった頬を気にしながら席に着いた。
 七尾は昨日二十歳になり、生まれて初めての酒、記念すべきその一口目を飲むため一人大衆居酒屋に足を運んだのである。しかし、何を注文していいのやら、分からないでいる。
 現在、地元の大学へ通って二年目に入るものの、酒は飲んだことはない。新歓コンパや友人たちと夕食を食べるため、街へ繰り出しても七尾は一滴も酒を口にしてはこなかった。隣で友人が酒を飲んでいても特に何も思うことはなかった。それは、特段酒に対して悪いイメージを持っているわけでもなく、小学生の頃に受けたアルコールパッチテストでアルコールに対して弱い反応が出たわけでもなく、保健の授業でアルコール依存症の症状に対して恐怖を抱いたわけでもなく、七尾にとっては自然な成り行きであった。いや、むしろ初めての飲酒を神聖なものであるという考えを持っていた。世の中の人々が初恋の思い出やファーストキスの思い出を大切にするように、七尾は初めての飲酒を大切にしたいとずっと考えてきた。
 そして、ずっと待ち焦がれていた二十歳になった。幼いころから待ち望んできた飲酒の瞬間を今まさに迎えようとしている。
「いつまでも緊張している場合ではない」
 そう思い立った七尾はメニューに手を伸ばした。メニュー最後のドリンクのページに目を落とす。緊張からか脇から腹にかけて一筋の汗が流れ落ちる。
 まず目に入ったのは「生ビール」の文字。テレビのCMで顔の整った俳優が美味そうに液体を喉に流し込む映像が頭に浮かぶ。だが、ビールはみんなが普段注文していることを知っているので、スルーする。
 次に目に入ってきたのはハイボールの項目。七尾の友人の好物である。新歓コンパでは友人が「水のように飲める」と言っていたことを思い出す。コークハイボール、ジンジャーハイボールと項目が並ぶ。コークハイボールは以前から気になっており、興味を惹かれたが七尾の今日の本命ではない。そう思いつつハイボールの項目から目を逸らす。

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