「どういたしまして。ほら、今晩は特別なディナーだよ。君が食べたがっていた、すき焼きをつくったのさ」
広人さんが、丸テーブルに電気コンロを置きました。おいしそうなすき焼きの鍋が、どんとのせられます。
「それから、もう一つ……」
「まあ、ホッピーね!」
「そう。スーパーで偶然見かけて、買ってきたんだ。昔、親父が毎日のように飲んでいてね。ぼくも成人してから、よくいっしょに晩酌したなあ」
懐かしそうに目を細める広人さんに、杏珠は深く相槌を打ちます。
「へえー、そうなの」
「そのまま飲んででもスカッとしておいしいんだけど、焼酎やウイスキーと割っても、最高なんだよ。うまいすき焼きには、焼酎割りがおすすめさ」
そう明るく言うと、広人さんがいたずらっぽく目配せしてみせました。冷蔵庫でキンキンに冷やした黄色いラベルのホッピーと、四角い焼酎ボトル、それからジョッキを二つ冷凍庫から取り出して、手際よく並べていきます。
「よし、よし。つくるぞっ」
杏珠はうきうきしながら、広人さんの手元をじっと見つめます。
まず、ジョッキに焼酎がトクトク入れられました。そして、琥珀色のホッピーが、勢いよくたっぷり注がれていきます。
「はい、どうぞ。おつかれさま」
「わあー、ありがとう」
「乾杯っ」
「かんぱーい。いただきまーす!」
二人は声をそろえて、元気よく挨拶をしました。シュワシュワ泡の立ったホッピーをゴクゴク飲みながら、熱々のすき焼きを存分に味わっていきます。
「ふわあ、しあわせー」
杏珠はうっとり呟きながら、窓にそっと目を向けてみました。
初雪が、絶え間なくちらちら降り続けています。
やさしい雪の音が、甘い二人の夜をやさしく包み込んでいきます。