そう、俺はいつも皆んなの頼みを何でも引き受けていた。少しくらい無理なことも「大丈夫、余裕」という具合に引き受けてしまう。
つい、その癖が出た。
たまたま同じタイミングで帰省する彼ら。ずっと、故郷にいる俺―
俺は何を話せばいいんだよ。週末に行くパチンコの話か?就職活動の状況報告か?そろそろ別の中古車に乗り換えようと思案している話か?そんなの。二十年前の俺でもできるような話じゃないか。
店はどうするよ。イタリア料理か?フランス料理か?寿司か?予算はどれくらいだ。俺が会社の歓送迎会や忘年会で使うチェーンの居酒屋は、飲み放題付きで四千円だぜ。
一人で飲む時は、居酒屋『なごみ』だ。薄汚れた木のテーブル、背もたれの無い丸イス。所狭しと壁に貼られた手書きのメニュー。そこからいくつか小鉢を頼み、大好きなホッピーを飲む。二千円もあれば腹一杯になって酔えるんだ。
皆んなは覚えているかな。酒を飲めるようになって、俺たちが初めて飲みに行った店がなごみで、そこに居合わせた見知らぬおっちゃんがホッピーを教えてくれたことを。それから俺はホッピーにハマって、二十年以上経った今でも変わらずに飲んでいる。
もう一度、皆んなで、なごみで、くだらない話をつまみに、ホッピーを飲めたら最高だな……なんて思うのは俺だけか……
ジメジメとした肌にまとわりつくような暑さが残る夜。駅前に唯一あるコンビニの灯りだけがやけに明るい。俺はロータリーにローンで購入したばかりの軽自動車を停め、駅の階段下で皆んなを待った。
趣きのある昔ながらの駅舎から、最初に現れたのはナツだった。
「おー久しぶり!」と、ナツが俺の胸に飛び込む。海外生活が長いナツとは対照に、俺には違和感しか無くただ照れ臭い。
「おー、元気そうじゃん!」と、次にやって来たアキは、拳を突き出した。ナツも同じようにして拳を合わせるので、俺も真似してみるが、これも違和感しか無かった。
ダイエットに成功したハルは、すっかり引き締まった体型となり「久しぶりだな、皆んな元気そうだ」と、一人一人と握手を交わした。
三人とも歩んできた道、背負っているものが俺とは違い過ぎて、その顔つき、立ち振る舞いは自信に満ち溢れているように思えた。
なんで来たんだろう、俺は必要なかったんじゃないか―
そんな思いがこみ上げる。
小さな中古の軽自動車に皆を招き入れたが、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「可愛い車だな」なんて、少しバカにされた気分を感じながらエンジンを回す。大人四人が乗るとさすがに窮屈で「すぐ近くだから、辛抱してな」って、わざわざ車を出して迎えに来た俺が気を遣ったりして。
この町唯一の歓楽街である寿町は、駅から車で五分ほど走った所にある。以前よりも少し寂れた雰囲気だが、昔ながらの居酒屋やスナック、寿司屋などが軒を連ねている。