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『季節は巡り』ウダ・タマキ

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 アキはプロのギタリスト。有名アーティストのギタリストとして、ツアー先で撮った華やかな写真ばかりをアップしている。肩まで伸ばしたヘアスタイルは、学生の頃と変わらず若々しい。

 皆んな俺と同じ独身だけど、種類が違う。あえて独身を貫き、人生を謳歌している。俺ときたら……華やかに過ごす他人の人生を覗き見しては、虚しさや嫉妬を感じるのが関の山だ。

 そんなことより、今の俺にはすることがあるだろ―

 この先、どう生きてゆくべきか。一人で悠々自適ならいいが、俺には両親の介護にかかる費用の支払いがある。俺は両親が四十過ぎになって生まれた待望の一人息子で、つまり二人とも今は八十歳を超えている。これまでは二人の年金でなんとか生活していたが、今年から二人揃ってデイサービスに通い始めると、生活するのに僅かながら不足が生じるようになった。だから、デイサービスの利用料の支払いは俺がすることになったというわけだ。たかが一ヶ月に五千円程度だが俺の給料では結構キツくて……まあ、おかげで長年吸っていたタバコをやめることができた。
 先日、実家に寄った時だった。俺の顔を見たお袋が「あら、どちら様でしたか」と、目を丸くして呟いた。認知症という病気とはいえ……「マジかよ」と、思わず漏れた。

 仕事帰りにコンビニへ立ち寄り、求人情報誌とホッピーを購入する。明日は休みなので、晩酌しながら今後について熟慮するつもりだ。
 助手席にレジ袋を放り投げキーを回した。しかし、十五年落ちの中古の軽自動車は「スカスカ」と情けない音を立てて機嫌が悪い。何度やってもエンジンはかからず、挙げ句の果てには何の音すら発しなくなった。
「お前まで俺を馬鹿にするのか」と、ハンドルを強く叩いた右手の拳に激しい痛みが走る。
「くそっ」
 俺はハンドルを抱え込み、頭を伏せた。思わず零れ落ちる涙。タイミングよく降り出したきう鬼雨が、慟哭する俺の声を掻き消した。

 漬け物の盛り合わせをつまみに、ホッピーを飲む。これが俺の楽しみであり、ストレス解消法だ。漬け物なんか自分で漬けて……嬉しいやら悲しいやら、長い一人暮らしから得た知恵と技術というのは結構たまったものだ。
 赤ペン片手に求人情報誌を広げ、目ぼしい仕事にチェックをしていると、携帯が鳴った。ちょうど良さげな求人欄を見ている時で、半ば無意識に応じる。
「フユか?久しぶりだな、返事ないから大丈夫かなと思ってさ」と、電話の向こう、懐かしい声の主はハルだった。
「ごめん、忙しくてさ……仕事が」
「そっかそっか、悪いな。で、どうだ、来れそうか?」

「あ、あぁ、大丈夫さ」

 俺は自分の発した言葉に耳を疑った。
 それなのに、今度は「店、任せていいか」というハルの依頼にさえ「わかった」と、俺。バカか……
「何でも嫌がらずに引き受けてくれるの、昔と変わらないな」と、ハルが笑う。

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