⼿紙を読み終えた⻫⽊くんが何かを⾔おうとした時、原賀先⽣が締めの挨拶を始めたので、⻫⽊くんは何も⾔わず、⼿紙とホッピーの空き瓶をそっとスーツのポケットにしまい込んだ。原賀先⽣は少し涙ぐんだ声で「これらも素敵な⼈⽣を歩んでください」とみんなに激励の⾔葉を送った。そして最後にみんなで校歌を歌った後、⼀本締めで同窓会は幕を閉じた。
ホテルから外に出ると、さっきよりもぐっと気温が下がっていた。でも、頬をかすめる冷たい⾵が、熱った⾝体にはとても⼼地よく感じた。ホテルの前では、各々が別れの挨拶を交わしている。共に貴重な幼少時代を過ごし、数年後のクリスマスに再会したクラスメイトたちが、またそれぞれの⼈⽣に向けて旅⽴っていく。⼈⽣って不思議だな、と思った。
「今⽇は久しぶりに会えてよかったよ。ゼミも頑張ってね」
⻫⽊くんにそう⾔って、私もその場から⽴ち去ろうとした。⻫⽊くんからさっきの⼿紙の反応を聞くことが、正直少しだけ怖くもあったのだ。けれど⻫⽊くんは私の肩をそっと掴んで、
「⼿紙、ありがとうな」
と、⽩い息を吐き出しながらそう⾔った。
「ううん。びっくりしたでしょ。でも気にしないでね。ずっと前のことだし。それに…」
私がその場を取り繕う為の⾔い訳を、あれこれと頭の中に巡らせていると「あのさ」と、⻫⽊くんが⾔った。
「ん?」
「これ、飲みに⾏かない?」
そう⾔って⻫⽊くんはポケットから何かを取り出した。暗くてよく⾒えなかったけれど、イルミネーションに反射して独特の飴⾊がきらりと光った。ホッピーの瓶だった。
「よかったら⼀緒にホッピー飲みに⾏かない?俺たちもう焼酎も飲める歳だし。こんなの⾒せられたら無性に飲みたくなっちゃってさ。まだ終電までも時間あるし。それに⼿紙の返事も… 」
今度は私を引き留める為の⾔葉を、⻫⽊くんが頭の中で巡らせる番だった。でも私は即答していた。
「うん、⾏こう」
そうして私たちは近くの居酒屋に向けて歩き出した。途中でふとホテルの⽅を振り返った時に智ちゃんの姿が⾒えた。智ちゃんは私たちに⼤きく⼿を振ってくれていた。その時にようやくわかった。智ちゃんには私の気持ちなんて、とっくにバレていたんだな、と。
正直、私はホッピーの飲み⽅をよく知らなかった。確か⽗は、何かのお酒に混ぜて飲んでいた気がする。でも⼼配はなかった。私が間違った飲み⽅をしている時には、きっと⻫⽊くんがこう⾔ってくれるだろうとわかっていたから。
「そうじゃないよ。こうやるんだよ」と。