何の⼼配もなく、⾃分のものはすぐにわかった。あの⽇、⻫⽊くんへの⼿紙をねじ⼊れた瓶。学校まで⾛る途中ずっとダウンの中で握りしめていた瓶。ホッピーと⾔うラベルの貼られた飴⾊の瓶。
私はその瓶をそそくさと⼿に取り席に戻った。すると、ちょうど⻫⽊くんも何冊かの漫画本を⼿に、席に戻ってくるところだった。
「佐々⽊、渋いなあ。ホッピーの瓶をタイムカプセルに⼊れてたの?」
「あ、ええと、うん。渋いでしょ」
私は⻫⽊くんに⼿紙の存在を⾒られないように、すぐに瓶を鞄の中にしまおうとしたけれど、もうバレてしまっていた。
「中の⼿紙、何?」
「あ、これはね…うん、⼿紙。あれ?⼿紙なんて⼊れたっけな…」
などと⾔って誤魔化そうとしたけれど、このまま⼿紙を⻫⽊くんに⾒せずにいることは、当時の⾃分に対して何となく後ろめたい気がした。当時の私は、今の私が⻫⽊くんに渡してくれることを願ってこの⼿紙を書いたのだ。それにこの⼿紙の内容は、⼩学六年⽣の⼥の⼦が書いたものだ。たぶん今の彼なら笑って読んでくれるだろう。
「えっと、これね。実は⻫⽊くんへの⼿紙なんだよね。読みたい…?」
「俺への?」
「うん。て⾔うか、読みたい?もし読みたくなければ…」
「いや、読みたいよ」
⻫⽊くんは私の⾔葉を遮ってそう⾔うと、⾃分使っていた割り箸の反対側を瓶の⼝に⼊れ、⼿紙をほじくり出し始めた。すると、いとも簡単に⼿紙は瓶から⾶び出し、⻫⽊くんの膝の上にぱさりと滑り落ちた。そして、「さ、どんな悪⼝かな」と笑いながら⻫⽊くんは⼿紙を広げた。私も当時⾃分が書いた⼿紙の内容が気になって、時々⻫⽊くんの表情を脇⽬で伺いながら、脇から⼀緒に⼿紙を覗き込んだ。⼩学六年の佐々⽊少⼥の⼿紙にはこう書かれてあった。
未来の⻫⽊くんへ
お元気ですか?⼗⼀歳の佐々⽊です。
今⽇はクリスマスです。たぶん⻫⽊くんがこの⼿紙を読んでいる⽇もクリスマスだと思いますが、同じ⽇ではありません。私は⼦供で、⻫⽊くんは⼤⼈だと思います。でも⼦供とか⼤⼈とか、何が違うのか正直よくわかりません。未来のわたしにはその違いがわかるのかもしれないけど、今のわたしにはわかりません。ただ、わたしは⻫⽊くんのことが好きです。きっとその気持ちは⼤⼈になっても変わりません。⼤⼈になんてなりたくないから、その気持ちも変わりたくありません。
⻫⽊くんはわたしに顕微鏡の中のすばらしい世界を⾒せてくれたり、わたしの嫌いなにんじんを⾷べてくれたりしてくれましたね。すごくうれしかったです。それと、そんな⻫⽊くんをすごくかっこいいと思いました。
もしもこの⼿紙を読んだ未来の⻫⽊くんがわたしのことを好きになってくれるなら、すごくうれしいです。今のわたしのことをじゃなくて、未来のわたしのことをです。⻫⽊くんが未来のわたしを好きになってくれるように、わたしはそれまでがんばろうと思います。未来のわたしがきれいな⼤⼈の⼥性になっていたら、それは⻫⽊くんのためです。
⼩学校でのすてきな思い出をたくさんありがとう。
メリークリスマス