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『家族での初めての飲み会』坪内裕朗

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続いて母のグラスに注がれる。ナカがグラスの半分を超えてもまだストップとは言わない。
母が、
『これ貧乏性でちゃって、なかなかストップって言えないわね。』
と言い、グラス8分目でストップと言った。父も兄も笑っていた。
続いて僕のグラスに注がれる番になる。母は、8分目のナカに、色付け程度のソトで割ったホッピーを飲みながら、
『せっかくなんだからたくさん注いでもらいなさい。』
と言い出した。
僕は引くに引けず、グラス8分目でストップと言った。
妹が、
『大丈夫?飲めるの?』
と聞いてきたので、
とっさに
『飲めるよ。』
と強い口調で返した。

僕が半分ほど、飲み進め、ナカを注ぎたそうとしているとき、父も母も兄もほとんど飲みきっていた。どうやら、ソトはほとんど注ぎ足していないようだった。
ただ、父も母も兄も呂律がまわらなくなってきていた。
どうやらみんな、酔っ払ってきている。
よく父も母も兄も泥酔して家に帰ってきていたが、このペースで飲んでいれば当然だなと感じた。
今日の飲み会は僕がしっかりしなければいけないと強く思った。

結局、お会計は兄が出してくれた。
お店を出ると、父は転び、立ち上がれない様子で、母は座り込み、背中をさすっていた。
兄は駅前のバス停のベンチに座り込んでいて、妹が水を買い、兄に渡していた。

僕はその、両親と兄がベロベロになっている姿を呆然と見ていると、子供の時に酔った両親に感じた、嬉しいけど恥ずかしい気持ちを思い出した。ただ今日は嬉しさのほうが強い気がした。兄が家族の前であんなに楽しそうに笑い、それに対し両親がとても楽しそうにしていた光景は純粋に嬉しかった。
そんなことを考えていると妹が私の方に向かってきて、
『こういう風に家族で飲めるって、いい家族なのかもね。』と言った。
僕は『そうだね。』と答えた。

母が7人乗りのタクシーを停め、父と乗り込み、僕らに向かって、
『皆乗って。拓は翔を連れてきて。』と言った。
そういえば、高校生くらいのときは、兄と僕が気まずそうにしているのを解消しようと、母が無理やり二人で何かをさせようとしてきて、僕はそれが物凄く嫌だったことを思い出した。
ただ今日は、お酒が入っているせいか、僕自身大人になったからなのか、そこまで嫌にはならなかった。
僕は兄の座るバス停のベンチへ行き、兄の肩を叩き、
『行くよ。』
と言った。

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