バイト帰りの小田急線に揺られながら、
少しわくわくする気持ちと、少し不安な気持ち、そして少し恥ずかしさを感じながら、
窓の外を眺めていた。
夕焼けに染まった多摩川の土手に、小さな子供2人とお父さんであろう男性が走っている姿が見える。そういえば、僕も小さい時は家族で多摩川によく行っていたなと、ふと思い出した。
今日は父の還暦のお祝いとして、
初めて家族5人で、居酒屋でお酒を飲むことになったのだった。
初めて家族で飲みに行くわくわくと、
2歳上の兄の翔(かける)、1歳下の妹の華(はな)と久々に話す不安と、
家族で飲む照れくささを感じずにはいられなかった。
僕含め、兄弟みんな、まだ実家で暮らしている。
ただ、僕が中学生高学年になった頃くらいから、兄とも妹とも、数えられるくらいしか顔を付き合わせていない。
別に何かあったわけではない。各々家にいる時間が少なくなり、たまに顔を合わすと気まずさを感じ、自然と疎遠になっていったのだった。
今日も、家から家族と共に居酒屋へ向かうのが気まずく、意図的にバイトを入れたのだった。
ブゥッとポケットに閉まっていたスマホが鳴り、手に取ると、LINEがきていた。
LINEを開くと、家族全員が入ったトークルームで、母が僕宛にメッセージを送ってきていた。
『華に教えてもらって、家族のトークルーム作りました☆
拓以外、みんな揃っているよ☆』
拓は僕の名前である。
そして、そのメッセージの後に写真が送られていた。
それは、居酒屋の席に座る家族の写真だった。
満面の笑みの母親、無表情にしようとしながらも口元が緩み嬉しそうな父親、そしてぶっきらぼうな表情の兄、嫌がったように俯きながらも表情は笑顔な妹の姿が写っていた。
みんな大きくなったなぁ、父も母もいつのまにこんなに老けていたのか、と感じた。