同じ家に住んでいるのに、写真を見るまで気がつかなかった。
『今日は社会人1年目の翔の奢りです☆
そして、成人を迎えた華のお酒を解禁します☆』
写真に続き、母が送ってきた。
『奢りじゃない』
すぐに兄が送った。
『大学で散々飲んでいるので、解禁じゃない』
それに続き、妹も送った。
いつもどおり、テンションの高い母と、
あきれながらもどこか楽しそうに会話する兄と妹、
それを嬉しそうに見ている父の姿が頭に浮かんだ。
ふと顔を上げると、外は日が暮れ、街灯の灯りが目立ち始めていた。
社内アナウンスが、次駅が僕の最寄り駅であることを告げた。
僕の不安な気持ちは更に強まり、このままずっと電車に乗っていたいなとさえ思った。
最寄り駅に着くも、すぐに居酒屋に向かう勇気が出ず、駅前の喫煙所で一服する。
スマホを見るも、LINEは、ぱたりと来なくなっていた。
お酒も入り、盛り上がり始めているのかもしれない。
ふとそんな考えが浮かび、僕のいない家族4人の席で笑い合っている姿を想像すると、急に寂しさが沸き起こってきた。
僕が産まれた翌年に妹が産まれたこともあり、両親に構ってもらえた時間が少ないせいか、時々寂しくなる時がある。今回のもそれと同じ感情だった。
僕はまだ吸いかけのタバコの火を消し、足早に居酒屋へと向かった。
居酒屋の店内へ入り、店を見回していると、
『拓、こっち。』
と大きい声が聞こえ、振り向くと、手を挙げて振っている母がいた。
僕の緊張と不安は、いっきに恥ずかしさへと変わった。
『店の中で大きい声で呼ばないでよ。』
と怒り気味で僕が言うと、
『居酒屋なんだから誰も見てないよ、そんなことより一杯目何にするの。』
と母が言った。
いつもなら恥ずかしがっているであろう兄と妹は笑っていた。
『この店はホッピーがおすすめだよ。』
父が言った。
テーブルを見ると、妹以外、ホッピーを飲んでいた。
『じゃあそれで。』
僕は、母が手渡そうとしたメニューを手に取らず、そう言った。
実際に僕は、ホッピーは見たことはあるが、飲んだことはなく、どことなく、もっと大人の飲み物だと思っていた。ホッピーを頼んだ僕は、大人になった自分を家族に見せつけることができるような気がして、少し誇らしげな気持ちになった。
僕の一杯目が来ると、父がソトを持ち、注ぐか?と聞いてきたので、頷いた。