その中でも特に覚えているのが、小学生の頃、兄の友達がうちに泊まりに来たときのことである。僕ら兄弟3人と兄の友達1人の計4人で、寝る前にテレビゲームをやっていると、酔った父と母が、割り込んできて、大はしゃぎしていた。
兄の友達はその光景が珍しかったのか、最初は驚いていたものの、のちに大笑いし、楽しそうにしていた。
そんな中、兄は、友達の前で両親が酔っ払っている恥ずかしさから、両親に怒っていた。妹も『酒臭い』と言い嫌がっていた。僕自身は、両親の楽しそうにしている姿は嬉しいと感じつつも、兄に同調し、怒った。
その後、両親は渋々ぼくらの部屋から出て行ったが、その後も兄は不機嫌なままだった。
そして翌日、兄の友達が帰ったあとに、兄は、僕と妹に向かって『おれらは大人になってもお酒を飲まないようにしよう。』と言った。僕と妹は頷いたのだった。
そんな思い出にふけていると、兄が大きく手を上げ、
『すみません、ナカください。』
と言った。
それに合わせて父が、
『あ、ナカふたつください。』
さらに母が、
『みっつお願いします。』
と言った。
僕は、それに続き、
『よっつでお願いします。』
と言って、グラスの残りを一気に飲み干した。
兄もよく酔っ払って陽気になり帰ってくることがある。
『お酒を飲まないようにしよう。』と言った約束なんて、何も覚えていないのだろう。
僕はというと、少し酔っ払うと、この兄との約束が頭を過ぎり、飲むペースを抑えるのだった。兄との約束だったからなのか、あの時の両親のような酔い方をしたくないからなのかは自分でもわからない。ペースを落とさなければならないという強制感に駆られるのだった。
ただそんな僕とは対照的に、兄はベロベロになるまで飲んでいる。
兄も所詮は1人のお酒に飲まれる人間なのだと感じ、何故か安堵した。
しばらくすると店員さんがやかんを持ってやってきた。
『このやかんでナカを注ぐので、ちょうどいいところでストップと言ってください。』
父が、
『これがこの店の凄いところなんだ』
と自慢げに言った。
どうやら、ナカを好きなだけ注いでくれるらしい。
まず兄が注いでもらう。ナカがグラスの半分を超えてもまだストップとは言わない。
母が、
『ほどほどにしときなさいよ。』
と言ったが、満面の笑みでもっと注ぐことを期待しているようだった。
結局グラス9分目までナカが注がれたところで兄がストップと言った。自分はお酒が強いと言わんばかりの表情であった。
続いて父のグラスに注がれる。ナカがグラスの半分を超えてもまだストップとは言わない。父は息子に負けてられるかと、上機嫌になっていた。
結局グラス9分目までナカが注がれたところで父もストップと言った。ほんのわずかだが、父のグラスのナカのほうが、兄のナカよりも多く、父は勝ち誇った顔をしていた。兄は笑っていた。