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『硝子の時間』もりまりこ

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 金沢さんも原田さんも高田さんも神田さんもみんな眼の前のホッピーの壜を、愛おしそうに眺めていた。
 そんなとき、店の外の遠くから除夜の鐘の音が聞こえてくる。
 鐘の音を合図にみんながいなくなったら嫌だなって思っていたら、大将がそうだってなにかいいアイデアを思い出したみたいに店の奥へと小走りに消えた。
 戻ってきた時もっていたのは、一本のDVDだった。
「大晦日は志ん朝の芝浜だろう」
「そうだよ。昔っからの俺たちの年越しはこれだったろう」
 そういってみんなでみようみようってことになってみんなが店のテレビを見上げていた
<芝浜>は、魚の行商をしている酒好きの勝さんとその奥さんの人情物だった。奥さんにある日尻を叩かれて早朝からさかな市場に行くと、そこには誰もいない。でもふと足元の海中をみると、沈んでいた革の財布をみつけてしまう。大金に大喜びした勝さんは、二日酔いした翌日奥さんに昨日の財布の中身をみただろうと尋ねる。と、そんなもんは知らないよ、あんた夢をみたんだろうと、とりあってもくれない。勝さんも諦めてたぶんあれはゆめだったのかもしれないと、その後仕事に精を出し始めたある日、あの日の財布はねって奥さんが勝さんにしみじみと打ち明けるある秘密にしていたことを・・・。
 バイトしてる時もいっつもみんなが、やっぱ志ん朝の芝浜はいいねぇ。痺れるねぇって言っていたのを思い出す。
 たしかにジョージさんとわたしもその日芝浜を見た。
 そしてしこたま神田さんの神泡ホッピーを呑んだのだ。尋常じゃないぐらいの泡がとけてしまうのがもったいないって思いながら、キンミヤ焼酎とホッピーがとけあいながら、ジョッキに注がれてゆくのをみていた。
 除夜の鐘をききながらいつしかわたしは睡魔に襲われた。遠くで志ん朝さんの色っぽい女房役の声が耳の奥で聞こえてる。
 どれぐらいうたたねしていたのかわからない。肩には色とりどりのニットのひざ掛けが、かかっていた。起きると芝浜さんが調理場に立って洗い物をしていた。気配を感じた芝浜さんが「ティアちゃん、風邪ひくぞ」って湯飲みに入れた白湯をそっと置いた。
「みんなは?」
「みんな、あっち」
 そういうと、芝浜さんは天井をゆびさした。
 カウンターの上にはいくつものホッピーの壜が立ったり転んだりしていた。
「ねぇ、金沢さんたちほんとに来てたよね」
「そうだよ、来てた。でホッピー飲み倒して魚喰い倒して志ん朝の落語芝浜を昔みたいにみて、うなってそれで帰って行った」
 すこしだけ涙がでそうになって、思い出したように後ろを振り返ってジョージさんをみた。眠い目をこすりながらやっぱりチューニングをしていた。
「ティアちゃんさ、やっぱりやめた」
 芝浜さんがそういった。
「なにを?」
「この店やめるのやめた」
 その時、ジョージさんがジャジャジャジャーンって爪弾いた。
「どういうこと? ここ今日が最後じゃないの?」

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