「えっ、最初に龍を捨てるんですか、斬新ですねー」
と小さい方は大きい方へ紙を回した。
「二六龍を同銀だと……」
と受け取った方はポツリといった。
「同銀だと?」
と営業が伝言ゲームのようにその手を発案者に知らせた。
「二五馬」
と自信ありげな返答。
「四五玉に四六金で詰みと?」
と技術は相棒の前から直接その年寄りに確認した。
いわれた方は幸せそうに頷いた。
「それは、持ち駒に角と桂馬が残ってしまうので、あきません」
とメガネの方はきっぱりといってテレビに目をやった。
「まーまーまー」
と営業はニコリとしながら、おじいさんに紙を持って説明した。
「えっ、持ち駒を全部使わなきゃいけないのか?」
と老人は驚いた。
「そうなんですわ」
「いやー勘違いしてた、ゴメンゴメン」
「こちらこそ、説明不足で済みません」
と丸顔。
そのとき――。
「済みません!」
とこちらはホッピーの中身を頼もうと若い店員に声を掛けた。するとほぼ同時に向かいの小柄な男も同じように声を出した。
「どうぞ、どうぞ」
とお互い笑顔で順番を譲ろうと。
「いやいや、そちらから、どうぞ」
とこちらがもう一押しすると、相手は済まなさそうにその申し出を受け入れた。
「ありがとうございました」
とお互いの注文後、あちらから礼をいった。
そのとき、そのままにしておけばよかったのだろうけれども、なんだか気になっていた問題のことを聞いてしまう。
「詰め将棋やっておられるようで。いや、少し聞こえたもので……」
「やりはるんですか?」
と相手はニコニコ顔で人差し指と中指で駒を指す仕草をしながら応えてきた。
隣の技術職は、チラリとこちらを見て、豆腐に箸を伸ばした。
「ええ、ヘタの横好きですけど……」
「ひょっとして、段持ちとか?」
「ええ、一応、将棋連盟からは三段と認定されてますけど……」
「それは、すごい」
と細身の方が二人の会話に入ってきた。
「ほんまやなー」
と営業は嬉しそうに相棒の方を向く。
「そしたら、解いてもらえるで」
と技術もなんだか少しは楽になったようで。
「いや、どうか分かりませんけど……」
「これが、その詰め将棋ですわ」
と小柄な方はその小さな紙をこちらに手渡した。
『一目、難しそう――』
と印象を持つ。
「五手詰めです。持ち駒は金と桂馬です、書いてますけど……」
と相手は念を押した。