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『詰むや詰まざるや』乃木正彦

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「今日は、五本二百円だよー!」
 と一杯飲み屋の主人が店頭で鳥を焼きながら店内に向かって叫ぶ。
 風向き次第ではその煙で店はもんもんとする。肌黒でアフロヘアの大将は上下黒のジャージでいつも焼くときにはゴーグルをつけている。
 横浜近郊の古い商店街に面した木造一軒屋の店。壁にはJリーグの順位表、相撲の番付表、誰かのサイン色紙が無造作に貼られている。それと、たっぷり煙を吸い込んだ木製の品札がぶら下げられ、ほとんどが二百円前後の税込。ビンビールの四五十円がダントツに高い。
 焼き鳥は、いつもは五本三百円で内容は好きに注文できる。
「ネギ間を塩二本、レバータレ二本、皮塩一本」
 という具合に。細かくニーズに応えるのは店主のポリシーらしい。でも店が混んでくると一本ずつのオーダーは彼の独断で中止されることがある。まーそれは仕方ないことだろうと。
 こちらの好みは、ハツ塩五本に黒ホッピーだ。それを飲み終えると、中身だけを注文するクセがついている。ほぼ毎週末、家で夕食前の自分だけの時間として楽しんでいる。
 四人掛けのテーブルが二卓と片側六人無理すると八人掛けの長いテーブルが一卓あるだけだ。低く小さい椅子は木製で座面が網でできている。
 有線、ラジオ、テレビの音はない。最初はあったのだろうけれども、忙しいときにその主人は音量調節を頼まれて頭にきて、得意の独断で止めたのだろう。
 お品書きと同じく煤けた冷暖房機と扇風機は天井で向かい合う形で設置されているものの、その効果は不明で気にする客は誰もいない。
 その二十席ほどは大体常連客で埋められている。彼らは、店主の宣伝にのることはなく、みんな思い思いのことをして注文する。天井隅に置かれたテレビで夕方のニュースを観たり、新聞を開いたり、グループで話したり、わたしのように一人でのんびり飲んだりと。
 そんなある夏の夕暮れ――。
 四人掛けのテーブルを学生のグループが占拠していた。一人だけいる店員の友達のようだった。もう一つの方では、近くの百貨店関係者がいつものように穏やかに飲んでいる。長いテーブルには中年夫婦や力仕事関係や年寄りやスーツ姿で賑わっていた。
 すると、店で初めて見る会社員風の中年二人組が、顔の汗を拭い上着を脱いでキョロキョロしながら目の前に座り、飲み始めた。
「これがホッピーやで。まずは半分こっちに入れてと……」

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