「とりあえず、この会社はクソだ」
真っ先に取り押さえたに来たのは、小川と山田だった。
前島は綺麗に飛ばされた。
お客様推進室に。
後釜で、小川が今はリーダーをやっているらしい。
「異動だってよ」
ネクタイをほどく。
「あ、生ビール辞めたんだ」
小椋がコロコロと笑う。
「生ビールなんて、しょうがなく飲んで、まずくて、勝手に大人になったと言われるだけの代物。味覚を飼い慣らされているだけだ」
ネクタイを投げ捨てる。
「何がこの苦さが大人の証拠、だ」
「お客さんも、ずいぶん似合う顔になりましたね」
いつもの店員が、ホッピーとグラスを小粋な音を立てて置いて去った。
扉を開けた。
今日でこの会社に来るのも最後だ。
辞職の申請だけはしておこうと席に着くと、そこには、部長が座っていた。
「よぉ」
席には自分の荷物が置かれてある。
「お久しぶりです」
「色々あったらしいな」
「まぁ、はい」
「一個いいか?」
部長は、まるで子供のように語り始めた。
「革命は、周辺から起こるんだ。いつの時代も、新しいものは偽物と言われる」
「はい?」
「それでさ、最近、UXっていうのが流行っているらしい。海外の社長もよくCSの部屋に来ているんだって」
前島は部長の雰囲気に驚く。
この人、死んでねぇ。
部長はニヤッと笑った。
「あれから考えたんだけど、俺はもう数年で退職だ。最後、一発咲かせてやろうと思う。前島はどう思う?」
部屋に前島の笑い声が響いた。
一通り、笑った後、腹を抱えながら、答えた。
「飲みながら考えましょうよ。偽物の僕らで」