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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『侵入社員』円堂句遠

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 部長は間違いなく、広告に関して、センスがあった。
 部長との会議が終わった後、「飲みに行かないか?」と珍しく誘われたので面白半分で行ってみることにした。
「あいつは運がいい、勘がいい、と言われたこともあったけど、これであいつらに俺のセンスが本物だったと証明できるな」
 酒が進むと、部長が今まで見たことのない表情で語り始めた。
「悔しかった。絶対にこっちの方がいいというのに、上の判断で違う広告案が採用された時とかは」
 そうか、部長も会社では偽物の仮面を被っていたのか。
 本物の中身は、きっといつも見ていた顔と違う。
「そういえば、部長もホッピーが好きだったんですね」
 茶色の瓶を指差す。
「昔から飲んでいるからなぁ」
「奇遇ですね。僕も好きなんですよ、コスパがいいんで」

 深夜、エレベーターが自分の体を運んでいく。
 鏡を見たら、普通のサラリーマンが出来上がっていた。
 プロジェクトを進めるには、摩擦は少ない方がいい。普通のサラリーマンを演じた方がいい。
 会社の飲み会にも顔を出すようになった。
 最初に生を頼むようになった。
 下卑た笑いも小慣れた。
 もはや、ここまで来たら、意地だ。

 次第に、もはや部長がチェックしなくても、大体良い広告を掴めるようになって行った。
 もっと多くの広告を作ろうと、社内の人たちに声をかけると、
「昔、漫画家目指していたから、イラレできます」
「趣味でカメラやっているので、画像編集できます」
 意外と、色々なスキルを持っている人がいた。
 もちろん、クオリティは低い。本物に辿り着けなかった凡人の集まり。だが、仮説検証には耐えられるレベル。
 ある日、部長が怒鳴り込んで来た。
「広告は作品なのに、なんでそんなアマチュアで作ってんだ!」
 だが、アマチュアの広告の方が部長の仮説よりもウケるようになった後では、虚しく響くのみ。
「俺も異動だってよ、よろしくな」
 嬉しそうな顔をして小川がフロアにやって来た。
 小川が提案する広告案は、驚くほどセンスがなかった。しかし、愚直に改善を繰り返して行くので、徐々に精度が上がって行く。
 不気味なぐらいに。

「前島、最近疲れてない?」
「あぁ、部長がだるいんだよ、最近」
 赤ら顔で前島が答える。
「そうなん?協力的だったんじゃないの?」
「最近、そうでもない」
「てか。なんで、そんなマジで働くんだよ?」
 小椋が不思議そうに聞いてくる。
「ちょっとしたけじめだよ」
「けじめ?」
 首をひねる。
「俺の親父は古いサラリーマンだった。会社の言われた通りに働いて、きついことがあっても『熱湯もいつかは肌に慣れる』って考えて。口煩い親父だよ」
「マジのリーマンじゃん」
「中小企業でエンジニアやってたんだけど、自主退職を促すために、無理やり営業に配置転換されて少し経った後」
 生ビールを飲み干す。
「病んだ」
「なるほど。じゃあ、前島は親父を壊した会社に復讐したいってこと?」
「違う」
 なんて言ったらいいかなぁ、と前島が黙る。
「親父に、ほら、親父の言っている通りにいかずとも成功するんだって証明したいというか。歯車の一つになることに、なんの意味もないって。ただの自己満だけど」
 固まりきった思考。部長を見ていると、なぜか親父に被った。
「じゃあ、その部長さん、パージしちゃえば?」

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