「そいつ、張り切って作ったんだけど、全然売れなくてな。噂だけど、最後は心病んで退職したらいいぜ。何?ECで何かするの?」
「部長からデジタルマーケティングをやれって言われてて。その施策で使えたらなぁっと思ってたんだ」
「あぁ、あの部長か。評判悪いぜ」
「そうなんだ」
「社長にペコペコするだけの、センスがねぇって専らの評判」
「お前、最近色々やってるらしいじゃん」
ミーティングの準備をしていると、山田が急に話しかけてきた。
「ペッドボトルはロゴが見えているところを、座る人に向けるんだ」
わかってねぇな、と前島が並べたペットボトルの向きを器用に変えていく。
「すいません、先輩」
「どうした?」
「部長から、新しく取り組むデジタルマーケティングに集中しろって言われて。会議の準備とかは山田にやってもらって、て言われてて」
山田は明らかにショックを受けた顔をしていた。
「わかった」
「ありがとうございます」
だけどな、と苦い顔で山田が続ける。
「お前が会社で期待されているのは知っている。けど、消費される商品になってはいけない」
「商品ですか?」
また訳のわからないことを山田がいい始めた。
「そうだ、お前は商品を作るために会社に入ったんだから、上の人の商品になっても消費されるだけだ」
たぶん、山田はやっと後輩が入って来て、自分の業務が減ると期待していたのだろう。
「こう言うことを言うのは嫌なのだけど、お前のためだからな」
「デジタルマーケティングの一歩として、デジタル広告をしようと思いまして」
小椋から共有された資料を部長にプレゼンした。
部長は嫌そうな顔をしている。
「こんな、中途半端な偽物作ってどうすんだ」
資料にプリントした広告案を指で叩く。
「いや、ABテストなんでこれぐらいでいいんですよ。仮説検証のためなんで」
「その態度がだめなんだ。これはお客様に届くんだぞ」
「そんなん、うちの会社の押し付けじゃないですか。ユーザーに聞いたほうがいいです。最終的には、ユーザーにとっていいものが出来上がる仕組みになっているんだから、お客様のためでもあるんですよ」
「広告は作品なんだ」
と部長が自信ありげに言い切った。
「そんな偽物の物売りなんて、俺は興味がない」
「はい?」
「物売りは、お客さんに喜んでもらってなんぼだ。このラベルデザインだって、ポスターだって、作品なんだ。本物の芸術作品と一緒」
「あ、そうすか」
前島が頑なな顔をしていると、部長がため息をつきながら言った。
「まぁ、社長には若い奴に任せろって言われているから。広告の内容だけはチェックしたいから持ってきて」
「強いていえば、A案があたると思うがな」と吐き捨てるように言った。
「じゃあ、これで進めさせていただきます」
意外と潤沢に予算があったので、とりあえず、小椋の会社でウェブ広告を回していくことにした。
広告をしっかり回していくと、徐々にECでの売り上げが伸びていくようになっていった。
ただ機械的に、良かった広告を残して、悪かった広告を外しているだけなのに。
一つ驚きだったのが、部長が「こっちの方がいいんじゃない?」という広告が常に一番良い成果を出していたことだ。