受け取った名刺を緑色のタバコの箱に入れる。
「で、何したらいいんだ?」
「うーん。とりあえず、ウェブ広告でも回したら?」
「あぁ、ググったら上に出て来るやつ?」
「そうそう。そういやECサイトあるの?」
調べると、自社のECサイトが見つかった。
「あるぽいわ」
小椋にスマホの画面を見せる。
「へぇ。結構、ちゃんと作られているじゃん。広告回して、そこで商品を買わせたらいいんじゃない?」
感心した面持ちで、言った。
「すいませんECサイトって誰が担当なんですか?」
翌日、前島は早速部長に聞きに行った。
最初はぽかんとしていたが、あぁECね、と手を打った。
「そんなの昔作ったやつがいたなぁ」
「そうなんですね」
「確か、今は物流チームが管理しているはず。まぁ、ほぼ売れていないから」
お礼を言い、そのまま物流チームのフロアへエレベーターで下っていく。
前島は何かワクワクしていた。
初めて受け持つ、自分の仕事。
物流チームのフロアに着いたが、どう話しかけたらいいかウロウロしていると、「前島?」と、ふと後ろから話しかけられた。
振り返ると、短く切りそろえられた男がこちらを伺っていた。
その顔を記憶から辿っていると、さっきの高揚はさっと引いていき、嫌な感覚が立ち上がった。
「あぁ……ええっと」
知らないふりをしようとした。
「俺だよ、俺。小川。同中の!」
前島は、小川を、しっかりと思い出していた。苦い記憶と共に。
「いやぁ、まさか前島と同じ会社になるとはなぁ」
「今日、この後暇だろ?」と聞かれ、引きずられるように小川に連れて行かれたのは、近くにあるチェーンの居酒屋だった。
卓の上に置かれたホッピーを眺めていると、小川が恥ずかしそうに笑った。
「結婚して、子供できてな」
「あぁ、そうなんだ」
「嫁からダイエットしろって言われてて、それでこれ。本当はこんなビールの偽物みたいのじゃなくて、本物のビールを飲みたいんだけどな」
慣れれば意外とイケるもんだぜ、グラスに瓶を傾けながら笑う。
「いやぁ、けど久しぶりだな。中学校卒業ぶりだから8年ぶりぐらいか。ちょっと雰囲気変わった?」
「あぁ、そうかな」
「そうかなって。もっとお前昔おちゃらけてたじゃん!何固くなってんだよ!」
バンッと肩を叩かれる。
愛を求めていて、愛のあるいじりを求めていたら、いつのまにかただのいじめられっ子になっていた思春期時代を前島は思い出していた。
特に小川は周りの空気に順応して、悪気なく前島を苛めていた筆頭だった。
「まぁ、今は同僚だし。これからもよろしくな。俺は高卒で入ってるし、なんかあったら聞いてくれ」
先輩面が鼻につく。
「で、なんだっけ?」
「あぁ、そうそう。今、ECとかって誰が担当しているのか知りたくて……」
「俺だよ、俺!注文ほぼ入らないから、特に何もやっていないけど」
「そうなんだ」
「なんか、ちょっと前にいたんだよ。会社変えてやるっていう暑苦しいやつが」
バカにしたような口調で小川が続ける。