『虫の家』
荒井始
(『変身』フランツ・カフカ)
俺は廊下の奥にもう一つ扉があることに気付いた。暗い突き当たりに浮かぶ扉。俺はふらふらと近付いた。そしてドアノブに手を掛けようとした時、突然娘がすごい勢いで割って入った。「この部屋には入ってはいけません」
『幻影団地』
実川栄一郎
(『むじな』『のっぺらぼう』)
幽霊が出るという団地の取材をすることになったフリーのルポライターである私。夜の現場を訪れてみると、誰も住んでいないはずの部屋の、通路に面した台所の窓にほのかな明りが灯った。思わずドアのノブに手をかけると…
『泥田坊』
化野生姜
(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)
祟りが語り継がれる田んぼの地形調査に訪れた私が目にしたのは、調査用ソナーを泥の中に引き込んでいく三本の指。泥にまみれた三本のかぎ爪のような指だった。その日の深夜、私はざわつくような気配に目を覚ました。
『家族』
NOBUOTTO
(『牡丹灯籠』)
「家庭料理 里」。料理店と言っても板戸一枚の入り口の上に看板が下がっているだけである。草薙はお店で働く母娘と親しくなり、そこで夕食をとるのが日課となっていた。ところがある日、お昼にお店のある場所を訪れてみると…
『お留守番』
大場鳩太郎
(『オオカミと七匹の子ヤギ』)
優しい母親と二人で暮らす「ぼく」の唯一苦手なことは留守番だ。ある日、しゃがれた声で『お母さん』だと名乗る男が家を訪ねてきた。その日はあっさり追い払えたが、翌日の同じ時刻に、再びチャイムが鳴った…