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『カーシャ•トッチ•シンバル』大澤匡平


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 父親であるトッチは適度に育児を放棄して“だらしない大人”と呼ばれた。
 母親であるカーシャは全てを受け入れて3年前に記憶障害になった。
 彼らは互いしか知らないまま籍をいれて、僕なんて雑音を産んでしまった。
 運動会には、2人して僕を撮ろうと追いかけて、ビニールシートに財布を置き忘れたせいで、簡単にも盗まれて、どちらも追いかけていた。せっかくの主役になった学習発表会は、ビデオにトッチの鼻をすすって嗚咽する音のせいで台無し。学校祭は、変装をしたせいで一人息子を見間違って隣のたこ焼きを誤買し笑い者。
 思春期に入ると、無知のくせして恋愛を説く姿が鬱陶しく、とても愛おしかった。
 そんな彼らは今も仲良く並び、戒名というあだ名がついた。

 3年ぶりに帰った家は炭の置き物になり、トッチは寝室に向かって倒れて、中にはカーシャ。面識もない親戚が「お母さんを助けようとしたんだ」なんて都合のいい妄想を押し付けてきた。
 記憶障害になったカーシャとは最後まで会えなかった。トッチも会わそうとしなかったし、僕も会おうとしなかった。子どものように親が笑うのは体が和らぐけど、子どもになった母は現在を否定してしまうようで、気づけば今日になっていた。

 斜めな性格のおかげで、お母さんをカーシャと呼び、お父さんをトッチと呼んだ。大学では群れから離れ、群れを羨んだ。社会人になっては時間を使いこなそうとしては浪費を悲しみ、過去に笑った。

 小猿となったカーシャの手には、小さいシンバルがあった。
 怒る事が減り、怒られる事が増えたカーシャ。
 幸福を落とし、痛ましい記憶を拾ってしまうカーシャ。
 乾いた髪で窓を見つめるカーシャ。
 あれだけ、自分を謳歌していたのに、カーシャの手をとり近くの青果店へ歩いたトッチ。
 決まって、柑橘類を買ったそうだ。
 腐りにくくて、いつでも、すぐに、食べさせられるように、と。

 もひとつ人生があるなら。
 人生、運命、命、愛、絆。味もしなくなった、こんな鯣でさえも飲めるように。人間でも若河童でもない。僕は、小猿に戻って、シンバルを鳴らした朝に戻りたい。

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