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『妹なんか、捨ててきて』高瀬ユキカズ


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 早紀は口を尖らせる。
 よくわからないけど、視界の色が戻ったことで早紀の記憶も戻ったのだろうか。
「美優を探さなきゃ」
「みーちゃんを探そ」
 私は早紀の手を取った。早紀も握り返してくる。
「そうだ、早紀の記憶が戻ったってことは家も元に戻ったのかも」
 私は早紀の手を引いて家に帰った。
 乱雑なリビング。おもちゃが散乱している。本棚には溢れんばかりの絵本。
 洗濯かごには早紀の服と美優の服とタオルだったり旦那の下着だったりが詰まっている。写真にもちゃんと美優が写っていた。
「よかった、家は戻ってる。でも美優がどこにもいない……」
 ――ピーンポーン。
 家のチャイムが鳴った。ドアホンのモニター越しに外を見ると母の姿だった。美優を抱いていた。
「あ、ばあばとみーちゃんだー」
 早紀が玄関へと駆け出す。私も玄関へ向かった。
 ドアを開けると、抱っこしていた美優を母が下ろすところだった。
「どうしてお母さんと美優がいっしょに?」
 私の問いかけに、母は首をひねる。
「あなたが預かってって言ったんじゃない。たまには羽根を伸ばしたいからって」
 私はもう何がなんだかわからなかった。早紀は美優の手を取り、いっしょに家に上がると廊下をリビングへ向かって走り出す。喧嘩していたのに、そのことはすっかり忘れているようだった。
「元気良すぎて、大変ね」
「うん」
 私は母とリビングに向かった。走り回る娘達を眺める。
「もう少し大きくなったらあなたも楽になるんじゃないかな」
 リビングの隅にはガラス扉の棚がある。母は棚に目をやった。その最上段、大人がやっと手の届く高さ。
 ガラスの扉を開けて産着を手に取る。
「あら、これってこんな色だったかしら?」
 母が手に取った産着は薄い青色をしていた。買った時は薄紫色をしていたのに、薄い青に変わっている。たぶん日に焼けて色が落ちたのだろう。
 早紀が母の持つ産着に目を向けた。
「その赤ちゃんの服、青いね」
 おどけるように言ってから、真面目な顔で続ける。
「また妹が生まれたら、あおいって名前がいいんじゃない? そしたら、わたし、もっとお姉さんになるよ。もっと、もっと、ね」
 語彙は貧弱だったが、口調は大人びていた。
 私と母は顔を見合わせる。思わず苦笑してしまった。葵のことはまだ早紀には話していない。もう少し大きくなったら話してあげよう。
 早紀は美優をぎゅっと抱きしめた。美優は苦しそうにしながらもそれを受け入れていた。それからいっしょに人形で遊びだした。喧嘩してもすぐに仲なおりしてしまうのも子供というものなんだ。
 子育てが楽になるのもそれほど先のことではないのだろう。
 もう少しだけがんばれそうな気がしていた。

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