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『ぼっちが似合うね、梶山君』もりまりこ


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 きっと共有スペースの中庭のユリかなんかについていたのに、なんかの拍子で、ユリとはなればなれになってしまったんだろう。
 思いがけず出会ったので、唐突にかたつむりのふさわしい居場所を想いながら、居場所ってなんだろうって思った。<居場所がない>とかってフレーズはよく聞くし、かつて梶山もおおげさに居場所がないって、そこに焦がれていたこともあったかもしれないけれど。
 そもそも、居場所があるとかないとかって、その場所についての申し立てなんだろうかって。それ違うなって。なんとなく答えみたいなものの入り口に辿りつく。
 ずいぶん長い間、居場所って場所そのもののことだと、思っていたけれど、場所はもしかしたらどうでもよくて、どんな人たちと一緒に居るかってことなんじゃないかと、あたりまえのようなことが今になって輪郭をあらわにしだした。
 ひとりじゃどうにもならないけれど、いま誰とそこの空気を埋めようとしているのかってことが、居場所があるとかないとかっていうことなのかもしれないよな、って。
 独り暮らしが続くと自問自答、ひとりでボケてツッコんで、夜のしじまに溶けてしまいそうになる。

 おもむろにキッチンに戻ってみた。
 まだカーテンのすそにいたかたつむりを、引っ越しさせることにした。
 なんか梅雨時のポストカードのデザインみたいで、ちょっとはしたないかなって思ったけれど、ガクアジサイの葉っぱの上にちょんと置いた。
 酔っている時は、いろんな奇行に走ってしまう。
 かたつむりの居場所は、ここでいいんだろうかと戸惑いながら。

 ソファでうたたねした。梶山が風邪を引いて4日目ぐらいのシーンが浮かんでる。栞がおそろしくうまいインスタントラーメンを作ってくれた時の夢を不覚にも見た。
 あの日の食卓。器の上からちゃんと湯気が出ていて、なにかがぬくもっている気配に満ちていた。
 あの日の食卓。そうひとりじゃなかった。そんなことを思い出しながら、寝ぼけたままパソコンに向かっていた。

<なにじんでもなにごでもなく、おとなでもこどもでもおんなでもおとこでもわかいでもとしよりでもなく。あかるいくらいでもなんでもないようなただひとしてそこにいることのしあわせをアマゾンで暮らす家族の中にみたような気がしています>

 なぜか。なぜだかはわかっているけど。わけもなく。わけがないわけじゃないけれど。梶山は栞にいつもよりは長いメールを書いていた。いつの間にかあの日見たコドクを知らないアマゾンの青年の話を綴っていた。
 送信するかどうか迷っていた時、ベランダの鉢植えに目が留まった。

 窓を開けると、カーテンの隙間からラベンダーの匂いがした。
 いつだったか栞が、男くさいからこれ置いてくよって言ったあと、ちゃんと封を開けておくからねって放置したままの芳香剤が、微かに匂っていた。そんなのわざわざいいよってあの日言ったけどむかしむかしの時間を、引き寄せているじぶんに、驚きながら、その香りが部屋に満ちてるっていやなことじゃないなって、思った。

 ベランダをもう一度見る。よく見ると、アジサイの波打つ葉っぱの上をちっちゃなかたつむりは、じりじりと、句読点のようにそこにいた。

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