(今は空が小さくなっちゃった)
ちょっと悲しい気分になりながら、西に沈む大きな夕日を眺めていた。
ちょうどその時、一階から玄関の開く音と母の賑やかな声が聞こえた。
「お父さん帰ったんや」
私は言った。
「おかえりー!」
部屋のほうに向きなおり、階段に向かって大きい声で言った。
「裕子は、ずぼらやな~」
白髪の無い腹のでっぱりもマシな父が部屋着に着替えるべく部屋に入ってきて、笑いながら言った。
怒られた記憶ばかりだったが、今思えば怒られることをしたのは私で、決して恐い父ではなかった。
どんどん記憶がよみがえり、懐かしさで胸が苦しくて、やっぱり気まずくて
「だってじゃまくさいやーん」
と私はふざけたふりをしながら一階に降りた。
効きすぎのクーラーはすき焼きの熱気で丁度いい。
久しぶりの家族揃っての晩御飯。
すき焼きはもちろん美味しかったが、諦めていた母との再会や家族団らんはとてもとても幸せな気分にしてくれた。
食事のあと、順番にお風呂に入り、父と兄とトランプをし、母は台所でラジオを聴きながら後片づけ、祖母はいつも同じ終わり方をする時代劇を日課のように観ている。
いつも味わっていたこの時間が新鮮で長く感じた。
不便だった時代のほうが家族の時間が沢山あったのかもしれない。
「もう寝えや」
これからテレビが面白そうなのにそう言われ、少し反発をしてみたけれど、親の言う事が絶対なこの時代、聞いてくれるでもなく、泣く泣く布団に入った。
優等生の兄はもうすでに夢の中だ。
私はというと、普段深夜まで起きているせいで寝られそうも無かったはずなのに、意外とあっさり意識が薄れていくのを感じた。
ガチャリ
玄関の鍵を回す音で目を覚ました。
自分の身体を見下ろすと、今の私だった。
(やっぱり夢か…それにしてもリアルな夢やった…)
そう思いながら玄関まで父を出迎えに行った。
「おう、来てくれたんか。サンキュー」
白髪でビールっ腹の父が仏壇の花を手に帰ってきた。
「今日お寺さん来るから買ってきてん」
「いつも悪いなあ」
そう言って花器に花を飾り、
「昼飯まだか?」
と聞いてきた。