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『夏のうたたね』ノザキマサコ


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 念のため、顔を冷たい水で何度も何度も洗ってみたが、やはりぽっちゃりした私は消えなかった。
 まぎれもなく小学生の私だ。。
 夢にしてはリアルすぎるが、まだ覚めそうもないこの状況にわくわくした。
「せっかくやし楽しもか」
 そう独り言を言って台所の母の元に戻った。
 料理が嫌いだった母だったが、姑である祖母と暮らすことで作るしかなく、嫌々作っている割にとても美味しかった母の料理をもう一度食べられることが、何より嬉しかった。

「夏休みやからってだらだらだらだらしてたらアカンよ!」
 まだイライラが収まらない母の愚痴が続いているが構わず
「今日の晩御飯何なん?」
 作りもせずに食べられる子供時代の幸せにどっぷりつかる気で小学生らしく聞いてみた。
「お父さん早いからすき焼き、お膳の準備くらいやってや!」

「やった!すき焼きすき焼き~
 お母さんのん美味しいもんな~うどんも入れるやんな~?」
「そうや裕子、すき焼き好きやろ。お父さん肉にうるさいからいい肉買ってん。
美味しいで~」
 ちょっと機嫌の良くなった母の愚痴が減りだした。
「お兄ちゃん二階に居るからそろそろ呼ばなあかんねん。お膳終わったら呼んだげて」
「それとクーラー入れよっか、お父さん暑い暑いうるさいで、きっと」
「はーい」
(兄も居るのか、あんま記憶ないなあ)

 お膳の準備も終わり、黒電話の横にそびえ建つような急な階段を両手両足でリズミカルに上っていく。
「お兄ちゃーん、御飯やで~」
 階段上がりすぐに私の机、その向こうに兄の机がある。

 漫画だらけで勉強するスペースの無いほどに散らかっている私の机とは対照的に、兄の机は作業をしやすいようにきれいに整頓されている。
 勉強ばかりで真面目な兄を面白くないとばかり思っていたが、勉強も真面目さも大事だったと今はわかる。
 母が亡くなった時、一番泣いていた兄だが、一番役に立ったのも兄だったのだ。

 
「ご飯やで」
 もう一度声を掛けた。
「晩御飯何なん?」
 やはり聞きたくなるのが子供だろう(笑)
「すき焼きやって!」
「いい肉やって!」
「やった!!匂いですき焼きやと思っててん。肉じゃがの可能性もあるしあんま期待せんとこ思って我慢しててん。やったね!」
 ガッツポーズをしている。相当嬉しいようだ。
 勉強をとっとと終えると、兄もだだんとリズミカルに階段を降りて行った。

(二階も昔の二階や)
 私は懐かしくて懐かしくて、自分の机の引き出しを開けて回ったり、小さいベランダに出てみたり、窓を開けて外を見てみたりした。
 屋根続きに長屋がずらっと並んでいて、目の前に広がる景色の空はとても広かった。

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