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『おねえちゃんごめんね』広瀬厚氏


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 ちっちゃな頃より感情の起伏が激しかった虹希である。激したと思ったら突然下を向いて泣きだしてしまった。たいした問題じゃないだろうと高を括っていた父親はあわてて、
「ごめんごめん」としか、かける言葉が見つからなかった。
「あなたったら、もう。はいはい虹希も泣くんじゃないの。お母さんちゃんと探すから、家でなくなったんならきっと見つかるわよ、大丈夫だから。さあ食べなさい」
「でも見つからなかったらどうしよう。若菜に悪いわ。ほんと見つからなかったらどうしようわたし」
「きっと見つかるから、大丈夫大丈夫」
「お父さんも家んなか気にして探してみるよ」
すると…
「ごめんなさい。おねえちゃんごめんなさい」絞るように言って、今度は七海が泣きだした。
 母親はすぐにピンときた。すぐには理解できなかった父親が、
「おいおい、なにも七海が謝ることも泣くこともないだろ」そう言った。
 鼻をすすって「あのね」と七海が話しだすのをさえぎるように母親が言った。
「わたし一生懸命作ったんだから、今はとにかく食事しましょ。カルボナーラ、塩加減も茹で加減も良いでしょ。ねっ」
「うん」と、皆うなずいた。
 夕食を終えた後七海は家族に正直に本当のことを述べ、二階の自分の部屋の勉強机の引き出しにしまわれた、ヘアピンと外れた猫の飾りとを、皆のいるリビングに持ってきて「これ」と言ってテーブルの上に置き「おねえちゃんごめんね」と素直な心で謝った。すると父親がテーブルの上置かれたヘアピンと飾りを手に取り軽く観察し、
「なんだボンドが外れて取れただけだろ。家にある瞬間接着剤で今すぐ留めてやるよ」
 そう言って瞬間接着剤で二つを一つに固定した。そして指先で少々乱暴に扱い外れないのを確認すると、
「はい、この通り」と言って、虹希に手渡した。さすがの虹希も笑みを浮かべ、
「お父さんありがとう」と素直に礼を言った。続いて七海が、
「お父さん、なかなかやるねえ」と、普段通り調子良く言った。
「あなたもたまには役に立つのね」
「たまには、は余計だろ」妻の言葉に夫が返した。
「おねえちゃんごめんね、ほんとごめんねほんと」
「そんな謝らなくていいよ。わたし怒ってないから」
「ほんと? おねえちゃんありがとう」

 翌朝すっかり雨もあがり太陽が顔を見せていた。家の外で小鳥がちゅんちゅん愛らしく鳴いている。姉妹は、洗面台を前に歯磨きの順番がああだこうだと、小さなことで口喧嘩を始めた。

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