9月期優秀作品発表
ARUHIアワード2022 9月期にご応募いただいた作品の中から選ばれた優秀作品18作品です。
『散歩しない?』
森本薫
(①新しい生活)
乗車している人がまばらな電車の四人がけのボックス席に、さゆりは一人で座り、ぼんやり窓の景色を眺めている。外の景色はくすんだ灰色に見える。電車が止まり、ドアが開くと、通路を挟んだボックス席に少年が乗り込んできた。さゆりは、目鼻立ちのはっきりした美しい顔にどきりとした。なんて綺麗な顔。
『照る日』
ウダ・タマキ
(②私の「家族」)
妻に先立たれて一年が経つが、未だに傷が癒えず一人の生活に慣れない老人。妻の一周忌法要の日のこと。お供えの花を買いに行った帰り道、一人娘の美月が幼い頃によく連れてきた公園に差し掛かった。美月がブランコに座り、その背中を妻が押す姿を思い出していると・・・・・・。
『緊張の嵐』
真銅ひろし
(①新しい生活)
初めてルームシェア。そして引っ越した初日。同年代が住んでいると思っていたが、住人は全然違っていた。年上らしき化粧っ気のない可愛らしい女性、長髪で元気の良い中年男性。見知らぬ人間と一つ屋根の下、緊張した状態で外は次第に嵐になろうとしていた。
『晴れでも、雨でも』
室市雅則
(①新しい生活)
恋人と同棲生活を始めた男は、もっと大きいことをしたいと会社を辞めた。しかし、大きいことは見つかりもせず、ただ時間とお金だけを浪費した。現実的な問題と恋人に呆れられたため、男は引越屋のアルバイトを始めた。
『あなたとの一人暮らし』
川瀬えいみ
(①新しい生活)
結婚後のすべての日々を過ごしてきた、大切な私たちの家。最初の数年は、あなたと二人で、娘が生まれてからは三人で、その後二人に戻り、真珠婚式の翌日から一人になって十年。母の一人暮らしを案ずる娘の願いで、私は娘宅の近所への転居を決意しました。新居に持っていくのは、あなたとの思い出です。
『遠回りして』
葵そら
(②私の「家族」)
定年退職を迎えた同級生夫婦。二人の定年を待っていたかのように、二十年前から家族として迎えた猫のモモエが逝ってしまう。猫のモモエの葬儀をすませ、思い出の場所に来た二人。桜並木は、二十年前と微妙に変わっていた。豪雨の爪痕を残す橋から、小学生のころの雨の夜を思い出す私。遠回りしてここまで来たけれど・・。
『ガラス越しの雫』
岩花一丼
(①新しい生活)
私たちは星を見るために郊外の中古戸建てに引っ越した。庭から見る星空が大好きな祖母であったが、体調が芳しくなくなり、ベッドで横になることが多くなる。祖母を元気付けようと家庭用プラネタリウムを買ったが逆効果。思い切って祖母の部屋に天窓を取り付ける改装をすると、祖母は涙を流して喜んだ。
『風の吹く先で』
芦澤りょう
(①新しい生活)
就職を控えた私は緊張で眠れずにいた。ホットミルクを飲みながら自分を励ましていると、起き出した母とオセロをすることに。理想の人生を歩む姉への劣等感や自分の進路決定に不安を感じていた私だったが、自分勝手で煩わしかったはずの母から強く優しい後押しを受け、新生活への思いを新たにする。
『僕と妻との逆転生活』
無糖
(①新しい生活)
勤め先が倒産し、突然職を失った僕。入れ替わるように、専業主婦だった妻の里子が職場復帰する。よって僕は、専業主夫として家事を担当することに。初めての家事と向き合う内、以前は見ようともしなかった苦労に気付いていく。