7月期優秀作品発表
ARUHIアワード7月期にご応募いただいた作品の中から選ばれた優秀作品16作品です。
『新しもの好きの彼女』
三輪ミキ
(②私の「家族」)
新しいパン屋ができたの、と言って君はぼくの前に厚切りのトーストを出した。一週間前は新しいケーキ屋ができて、その前は新しい冷凍食品屋だった。いつも君の周りには新しいものがあって、いつの日か、新しい夫なの、と知らない誰かを紹介されるんじゃないかとドキドキする。
『ないという新生活』
洗い熊Q
(①新しい生活)
私の新生活は突然始まったかと思っていたけど、実はまだ全然始まってなかった事に後々気づかされたんだ。
『月の舟』
吉岡幸一
(①新しい生活)
都会から引っ越してくる前夜。引っ越し先近くの海浜公園で男は恋人と共に月を眺めている。月は糸のように細い受月でまるでゴンドラ舟のように見える。愛し合っているふたりなのに、ふたりの距離は離れている。月を見ながら語り合うふたりに、不思議な月の光景が繰り広げられていく。
『新しい色彩』
浅羽メグ
(①新しい生活)
文房具メーカーを退職した駒井は、気分転換にスケッチに出かける。そこで出会ったのは、小学生の瑛士と伯父の奥本。奥本の馴れ馴れしい態度に警戒しつつも、自分の境遇を打ち明ける駒井。そんな駒井に奥本は絵画教室の講師になってほしいと誘う。しかし自分の実力に自身のない駒井は無理だと首を振る。
『蜘蛛の巣』
横尾千智
(①新しい生活)
新築で建て、長年暮らしたマイホームを取り壊し、夫婦だけでマンションに引っ越す日。手を洗おうとした私は、かつて自分が洗面台のシンクに電動剃刀を落して作った巨大なヒビ割れ「蜘蛛の巣」を見つめる。妻が気づかないふりをするので、意地になって謝ることができず、数十年の月日が経ったのだ。
『右腕の出勤』
町田舜
(①新しい生活)
ある日、峯田加奈子は新型ウイルス性関節症に感染する。ほどなくして右腕が体から外れて独立した意志を持つようになる。加奈子は自分の代わりに右腕を仕事に行かせて、楽な日々を送る。右腕の体は日に日に加奈子らしく変化していき、やがて加奈子の存在は右腕に取って代わられる。
『母の思い出』
太田純平
(①新しい生活)
空き家になった祖父母の実家に、家族四人で引っ越して来た。築六十年の古い家で、中はまるでゴミ屋敷のよう。亡き祖母は物を捨てられない性格で、せっかく僕のものになった部屋もゴミやガラクタで溢れ返っていた。そこで僕は「我が城」を築くために、まずは物を捨てることから始めたのだが――。