小説

『不自由な幸福』長月竜胆(『アザミを食べるロバ』)

ツギクルバナー

 男に引かれ、あぜ道を行く一頭のロバ。背には収穫された野菜や穀物などが積まれている。人を手伝って様々なものを運搬するのがロバの仕事だった。
 途中、立派なアザミが群生している場所を通りかかると、ロバは足を止めた。そして、むしゃむしゃと嬉しそうにアザミを頬張り始める。それを見た男の方も、無理にロバを急かすような真似はせず、草の上に腰を降ろして休み始めた。よくあることで、のんびりとした田舎の風景である。
 ロバがアザミに夢中になっていると、一羽の鳥が飛んできて荷の上にとまった。鳥はしばらくロバの様子をじっと見つめると、ふいに声をかける。
「ロバさんよ。そんなもの食べて美味しいのかね?」
「ああ、美味しいよ。僕の好物なんだ」
 ご機嫌に答えるロバ。
 鳥は「ふーん……」と呟いて、それから哀れむように言った。
「背中にそれだけ立派な食料を背負っていながら、道端の草花を食べているとは、何とも滑稽だと思わないかい?」
 自由に生きる鳥からすれば、ロバの生き方はまるで卑しい奴隷のようにさえ映るのである。現状に満足している様子のロバに、皮肉を言わずにはいられなかった。
 そんな真意も知らず、ロバはマイペースに答える。
「僕は身の程をわきまえているからね。この積荷は人間のものだ。その代わり、僕らは畑の外のものを自由に食べることが許されるのさ」
 それを聞いた鳥は思わず失笑する。
「君は救えない程におめでたいな。許されるもなにも、そもそも畑の外のものは誰のものでもないだろうに。君は人間に支配され、良いように使われているだけじゃないか」
 鼻で笑われ、ロバは少しムッとする。食事も中断し、鳥の方を睨んだ。
「そう言うけど、野生の中にだって縄張りという概念はあるだろう? 余所者や弱者が大きな顔をすれば、ろくなことにはならないよ」
 ロバの反論に、鳥はうんうんと頷く。

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