すやすやと安らかな寝顔を見ているうち、朧の瞳に涙がこみ上げてきた。やがて、こらえきれなくなった嗚咽が漏れる。慌てて隣の間へ移ろうと腰を上げたところへ、声がかけられた。
「おぼろ?」
そっと涙を拭い笑顔をつくると朧は、布団に包まれている小さな姫へそれを向ける。
「起こしてしまいましたね。申し訳ないことをいたしました」
詫びながら、姫の枕元へ移動する。
すると、愛らしい顔が心配そうに朧を見上げる。
「泣いていたの?」
否定しようと首を振った朧だったが、そうしている間にも涙が再び湧いてくる。姫は小さな手を布団から伸ばし、朧にそっと重ねる。
「心配しないで。大丈夫よ」
これではどちらが年長者かわからない。
朧は大きく息を吸い、気を取り直した。
「姫さま。朧は、何にも心配しておりません。姫さまでしたらどんなことでも、上手に切り抜けられると信じていますもの。ただ、寂しく思ってしまったのです。朧は、姫さまが大きく成長なさるご様子をお側で見守りたかったのです。地球というところは、ここよりも時の流れが速いと聞きます。きっと姫さまは、この月へお戻りになる頃には今より大きく、そしていっそう美しくなられているのだろうと思うと、朧はそれを間近に出来ないことが悲しくなってしまいました。それでつい・・・今日はゆっくりお休みにならなければならないのに、それを妨げてしまうなんて。この通り、お詫びいたします。さ、姫さま、朧はもう落ち着きました。姫さまもお休みくださいませ」
そういって姫の手を優しく包み、布団の中へ戻してやった。
朧が自分の寝台へ戻ろうと立ち上がると、姫が朧へ呼びかけた。
「おぼろは、もう寝るの?」
「ええ。姫さまとお話も出来ましたし、そういたします」
そのまま立ち去りかけた朧だったが、ふと気になり、姫に問いかけた。