駐車場に車を停めてからスマートフォンを取り出して中を確認する。昨日から何度も見ているメッセージ。何回見ようが変わらないその文面を見て綾葉の心は陰鬱な気持ちでおおわれた。
深呼吸をして車を降りて、目の前の建物を見上げる。変わらないその佇まいが綾葉を落ち着かせてくれた。この美容室に通い始めたのは五年ほど前だ。綾葉がちょうど大学を卒業して社会人になった年。通ったのは三年ほどで、ここ二年間は別の場所に行っていた。
「いらっしゃいませ!」
玄関のドアを開け、カランとベルの音が鳴ったと同時にレジ前にいた女性が振り返る。
「あ! 綾葉さん! こんにちはー!」
明るい茶髪をきっちり一つにまとめた大人っぽい髪形なのに、美鈴さんの笑顔は相変わらず子どもっぽい。幼い、というよりも純粋さが顔に出ていると言った方がしっくりくる。年齢は聞いてないが、自分よりも少し年上くらいかなと綾葉は予想している。
「あ、えと、お久しぶりです」
用意していた言葉をこの場で言うべきかそれとも後にとっておくか、むしろ言わないべきなのかをぐるぐる頭の中でまわしている内に「こちらにどうぞ」と部屋へと案内された。
外から見た感じでは分からないほどこの美容室は奥行きがあり、カットする場所は個室になっているので安心感がある。
「結構伸びましたね」
「そうですね。今までで一番長いかもしれないです」
綾葉の髪は肩を超えた辺りまで伸びていた。
「今日はどうします?」
「ばっさりいっちゃってください。この辺まで」
手をあご下辺りに持っていく。美鈴さんは「ふむ」と頷いてから鏡越しに綾葉と目を合わせる。
「そしたらサイドはその辺りまで切りますね。これから春先にかけて陽の光が強くなってくるので首元には残しますか」
「それでお願いします」
「じゃあシャンプーいきましょう」
椅子からおりてシャンプー台へと向かう。美鈴さんとの会話は楽だ。こちらの要望を聞きつつ適切な提案をしてくれる。最初の内は自分で調べたヘアカタログの画像を見せていたが、その画像を土台にしつつも美鈴さんは綾葉の髪質や顔の形から似合うヘアスタイルを作り上げていってくれた。自然と綾葉の指示はアバウトになっていった。
「あ、これいい香りですね」
シャンプー中に思わずそう言うと、「あ、うれしい」と軽やかな声がふってきた。
「ぶどうの香りです。ただこれ甘すぎて苦手って方もいるんですよ」
「え? そうなんですか」