最悪だ。
俺は駅のホームから階段を上がったところで立ち尽くした。
頭に違和感があったのは数十秒前のこと。
即座に思い当たった。
あまり思い当たりたくない『原因』に。
くるっくー。
俺の頭上を呑気にすいっと飛んでいくそいつは、俺の頭に違和感を与えてくれた犯人である。
すなわち……。
「うぇ……キモすぎる……」
キモいのは髪にある、べったりした感触。
当たり前だろう、頭の上に鳩のフンなんて落っことされたら。
数秒、固まった。
が、階段の途中で立ち止まっているわけにはいかない。そろそろ階段を上がり、しかしそこで立ち尽くしてしまったのだ。
どうしたものか。
どう考えても触りたくない。
だが、あいにくハンカチもティッシュも持ち合わせていなかった。
朝、慌てていたのでポケットに入れてくるのを忘れたのだ。
まぁいいか、会社までそう遠くない。急に腹具合でも悪くならない限り、使わないだろ。
そう思ったのに。
ある意味、腹を壊すより重大事故が起ころうとは誰が予想しただろう。
つまり俺はこのまま、頭に鳩のフンを乗っけたままなんて、間抜けな姿で出社しなければいけないのだ。悲しすぎる。
いや、コンビニでも寄ればいいか。
気を取り直すことにした。ティッシュくらいならコンビニで買える。
だがそれで拭っても、消えるわけではない。
汚れは髪に残ったままだろうから、俺は一日、仕事の間じゅう鳩のフンに付きまとわれる……。
もうため息も出やしない。
「あの……」
しかしそこで声がかかった。若い女性の声だ。
どきっとした。なにか、知り合いだろうか。
そうであれば困る。大変困る。
こんな情けない姿と状況のときに、知り合いに出くわすなんて。
万一、会社の同僚などだったら吹聴されて、いい笑い者になってしまう危険すらあるのだ。
「どこか、具合でも……?」
しかし振り向いた先に居たのは、知らない女性だった。心配そうな顔をしている。
彼女は大変洗練された外見であった。
アップにされた髪は明るい茶色。