世界一旨い珈琲を提供したい。そう思って始めたカフェだった。だが経営は思った以上に厳しい。開店に大反対をした妻には6か月という期間を区切られた。それで黒字経営にならなければ辞めるか、離婚するという約束だった。
開店から来月で1年になる。妻は出て行き、家賃と原材料を払えば何も残らない経営を続けている。当然なことに人を雇うほどの余裕はなく、珈琲を煎れることから接待まで1人でやらなければならない。それでも客が来てくれれば嬉しいのだが、頼りになるのは常連客だけだった。商店街の若き店主たちだ。ご近所さんの助け合いのような有り様だった。
商店街の入り口にあるという立地条件にも関わらず、客足が伸びないのは、近くにチェーン店のコーヒーショップができたこともある。ブレンドコーヒーを290円で提供している。うちはブレンドでも450円だ。これ以上は下げられない。好きな人は珈琲を褒めてくれる。450円でも安いと言ってくれる人もいる。でもそれも人数的には極わずかだった。
珈琲セットに使用するケーキ以外にも、提供できるものを作ろうと、パフェやサンドイッチなども挑戦したが、評価はひどいものだった。常連客に試食品を食べてもらうと「これじゃ、小学生の娘の作ったサンドイッチの方が旨い」などと言われる有様だ。
最近気持ちが落ち込むことが多い。やはり甘かったのか。妻の言う通り珈琲以外に取り得がない僕には、商才もなければ料理の才能もないのだ。
商店街ではほとんどの店が水曜日が定休日となる。珈琲ルパンも水曜日が休みだが、最近は休みでも店に行く。休みの日は売上向上の打開策を見つけるための研究をしている。ランチに提供する品の試行錯誤を続けているのだ。本当は珈琲だけを提供する店でいたいのだが、そうもいっていられなくなった。
この店は商店街の入り口にある。半地下にあるため店内の商店街側には天井近くに明かり取り用の窓が取付けられている。そのため商店街を通る人の足だけが見える。店にいる一番の楽しみはそれだった。俺は脚フェチなのだと実感している。
太い脚、細い脚、可愛らしい脚、色々な足が通り過ぎていく。見ていても飽きない。最近特に楽しみにしている脚がある。ただ細いだけではなく均整がとれて美しい。本人も意識しているのか、必ず膝上のスカートを履き、7センチぐらいのヒールを履いている。歩き方も美しかった。水曜日以外は毎朝10時少し前に駅方面から商店街の奥へと向かい、帰りは7時30分ごろ奥から駅方面へと歩いて行く。
入口のカウベルが鳴った。反射的に「いらっしゃい!」と言いながら入口を見る。少し冷たい感じのする美女だった。初めての客だ。店内を見まわしてから商店街側のテーブルに座った。店内には常連客のヤスさんが1人いた。
座ったため彼女のスカートの裾はより膝上に上がっている。その脚を見て「あの脚美女だ!」と思った。履いている靴も見覚えがあった。彼女は珈琲を注文した。