「ねえ、おとうさんっ、今年もゴールデンウィークに田植えするの?」
「んだ、お前も手伝うんだぞ」
今年も待ちきれない五月の大型連休がやってくる。うちは兼業農家だ。おじいちゃんが若い頃、水のみ百姓だったうちの実家は大本家の田畑を借りて農業をしていた。経緯は知らないが、それがいつの間にかおじいちゃんの財産となっていた。実家の周りには畑と田んぼばかりで、おとなりさんは二階の窓から眺めるとようやく見えるといった様子である。
毎年この連休は田植えと決まっている。親戚一同が集まり、協力して田植えをするのである。おじさんおばさんとともに、いとこたちもうちにやってくる。なのでゴールデンウィーク数週間前からもう私はわくわくしているのである。
「はやく一緒にテレビゲームしたいなあ、こないだの約束覚えているかな」
最後にいとこに会ったのはお正月休みのときである。彼らは年が近いので学区こそ違うものの見てるテレビ番組は同じで、流行ってるゲームやなぞなぞなんかも同じなのである。
4月ももうすぐ終わりに近づき、家の近くの桜の木々が淡いピンク色から新緑の鮮やかな色に変わる頃、初夏を感じ始めるのである。風もほのかにあたたかく、土のにおいがする。下校中に、道端に生えいるへびいちごを紡いで、歩いたり、ときどき意味もなく走ったりして帰宅する。家に帰ってくると、おじいちゃんがビニールハウスで何かやっている。
「おじいちゃーん、なにしてんの」
「あっちさいってろ」
おじいちゃんはぶっきらぼうである。井戸から水を引いて、田植えで使う苗に撒いていた。何をしているかは知っていた。家の中にひとりでいても寂しいのだ。ランドセルを縁側に置いてまた畑に戻る。おじいちゃんのそばで雑草を抜いてみたり、土を掘り返してみたりして、父母の帰りを待つのである。おじいちゃんの機嫌の良い日は水撒きを手伝わせてもらえたりした。子どもながらにおじいちゃんのぶっきらぼうさには頭に来ることもあったので、ビニールハウス内に設置してある温度計を逆さまに置いてみたりして仕返しをした。ビニールハウスの中はとても温かい。独特のにおいがあって、苗はすくすくと上に向かって緑の葉を伸ばしている。米の苗は密集して生えているので、上からなでるとふさふさで、なんともいえない心地よさなのである。さすがにこの苗にはいたずらはしない。あちこちでしゃがんで、何度か苗をなでて感触に満足したら、家の中に入って子ども教育番組を見始める。さあいよいよお待ちかね、5時半からのショートアニメが立て続けに放送される、子どものゴールデンタイムにさしかかったところで、おじいちゃんが作業を終えて茶の間に入ってくる。手には焼酎の水割りを持っている。彼のお気に入りのお酒である。格好をみると外用の作業着から、家の中用の作業着に着替えが済んでいる。おじいちゃんの私服は、作業着かスーツの2択しかなく、とてもシンプルだ。スーツを着るときは隣組の寄り合いで出かけるときぐらいである。夏はランニングにステテコでこれまたシンプル。