「いらっしゃいませー!今日はこちらの席ご用意してましたよ」
私は居酒屋の若女将。主人と居酒屋を営んでいる。
若女将ということは・・
大女将もいる。主人のお母さんだ。なかなかパワフルなおばちゃんである。最近はあまり店には出ていないが、席は置いているといった状況。まあ、正確にいうと、主人の両親と主人、私で営んでおります。っていっておかないと面倒なので・・。
おっとり若女将(自分でいう)とはまるで正反対の性格の『お狼』。あ、間違ったおおおかみ(大女将)。
まあ、その話はさておき、忙しい土曜日が始まる。
「こんばんはー」
ほぼ毎週土曜日にいらっしゃる男性2人組の常連さん。職場が一緒とのこと。
ほぼ毎週来るけれど、土曜は混むことがわかっていて事前に電話予約し、少し注文もしてくれる。そうすることにより、混んでいてもスムーズに料理を出せるのでありがたい。必ず小田さんが先に到着し、その後村田さんが来店するという順番だ。そして、必ずと言っていいほど村田さんが来たことに誰も気づかない。そのわけは、ものすごく静かに入ってくるからだった。ドアの鈴の音がならず気づかないのだ。きっとものすごくシャイなんだと思う。話をしていても、あまり目線を合わせないし。
「やっぱり気づかなかった。すみません。いらっしゃいませ」
「あ、こんばんはー」
いつも小田さんは村田さんが来るまで待っている。この2人は結構年齢差があるが仲良しである。村田さんの方が15歳くらい上だったはず。
「んじゃ、いつもの白と黒で」注文するのは小田さんの役目のよう。
ホッピーはこの方たちに強く押されメニューに入れることになった。それまでお二人は、麦焼酎を炭酸で割ったものなどをオーダーしていた。そして、いつも決まったように「ホッピー置かないの?」と言われていた。元々ドリンクが多く、在庫を抑えたかったので渋っていたが、ほぼ毎週来てくださるので、この方たちのためだけに数本置いていた。なのでメニューにも載せていなかった。以前から「ホッピーはないですか?」というお客様もいたので、結果的にメニューにのせることにしたら、喜ぶお客様が結構いた。
ホッピーは白と黒を置いた。
2種類置いた理由は、そうこの2人がそれぞれ「俺は黒」「僕は白」と言ったからだ。
ちなみに私個人は黒派である。コクが感じられて好きである。
「今日はご褒美だ」と思ってホッピー黒をグラスに注ぎ、美味しそうなラテのような泡と一緒にストレートで飲む。焼酎を入れずにそのまま。
別に酔うことは目的ではない。飲んでる気分を味わいたいというわけでもない。味とこのビンから注いで飲むという特別感が好きなのだ。
「いらっしゃいませー」若女将の威勢がいいとはお世辞でも言えない声。これでも頑張っている。
「こんばんはー」