こちらもほぼ毎週土曜日にご家族で来てくださるご近所の佐藤さん。この方たちも事前に電話をくださる。
数時間前、店の電話が鳴った。
「もしもし~、佐藤ですー。」と佐藤さんの奥さん。
「今日、席空いてますか~。」おっとりしたこの声は私を和ませる。
「いつもありがとうございます。お席大丈夫ですよ。4名様で大丈夫ですか?」
「は~い」とちょっと笑いを含んで返事をするところも明るい感じがして好きだ。
「今日も少し混みそうなので、何かいらしてすぐ召し上がるものご用意しておきますか?」
「あ、はい。じゃ~大根サラダと~、ポテトフライと~、あと~今日もほうれん草炒めあり
ますか?」
当店は直接農家から採れたて野菜を買っているので、新鮮な野菜が食べれる。新鮮な野菜はやはり美味しい。ただの塩炒めでさえ、主人の絶妙な炒め過ぎず炒めなさすぎずの加減で旨さが更に引き出され、とてもおいしい逸品となる。今回もリピートされた!佐藤さん家族は、ご主人、奥さん、知的障害の息子さん、おじいちゃんの4人で大抵いらっしゃる。
佐藤さんが初めていらしたあたりの数年間は、時々いらっしゃる家族という感じでメンバーはご主人、おじいちゃん、車椅子のおばあちゃんだった。こちらのおばあちゃん、表情からして気難しそうなのだが、注文や何かお願いするときもぶっきらぼうな口調で、例えば空いてる皿があったら、すぐに「これ持ってって」と言ってくる。あと、注文してそんなに待たせてないのに「まだ?」とか言ってくる。決して業務はおろそかにはしていない。むしろ言ってくるので気を使ってるくらいである。おそらくせっかちなのだろう。しかし、しばらく佐藤さん家族が来なくなった時期があった。数カ月後佐藤さん家族がいらした。そこにはおばあちゃんが来なかった。
でも、ドリンクのオーダーでは「ビール2つ、グレープフルーツサワー、ノンアルコールビール、ジンジャエール」
おばあちゃんはいつもジンジャエールを飲んでいた。
おばあちゃんの分?後から来るの?あれ?もしかして、ということも想定しながらジンジャエールに氷を入れる。
「では、お疲れ様でした」ご主人の音頭で乾杯。小さくグラスが鳴る。おばあちゃんのジンジャエールにもカチャン!
後日聞いたが、やはり亡くなったそうだ。
亡くなった方にジュースを作ったのは初めてだった。
しかし、佐藤さんたちはおばあちゃんも一緒にいるという気持ちで乾杯をしているんだよね。佐藤さんたちはいつものことなのかもしれないが、経験したことのない私は不思議な感じがした。目に見えない人のドリンクを作ったことに。そうか、私はいつもオーダーをいただいたお客様に美味しく作ろうと思ってドリンクを作っていたんだ。初めてわかった。私にとってはいないというこの方に、その気持ちをどこに入れたらいいのかなと思ったんだな。
それからまた佐藤さんが時々いらっしゃるようになり、今ではほぼ毎週いらっしゃるようになった。メンバーが奥さん、息子さんが加わり4人で来るようになった。
ホッピーをメニューに入れるようになったら、意外に佐藤さんご主人が、食いついてきた。
今まで、始めにビール、その後日本酒の方だったので、そのサイクルなんだと思っていたら、壁に貼ったホッピーのPOPを見て「ホッピーの白あるの?」と訊かれた。若い頃、東京でよく飲んでいたそうだ。