「ねぇ、マジなの?」
半年に1回は4人で集まる餃子屋に入るなり、祥子が言った。
昔ならドアに突っ込んでもおかしくない早さだけど、透明なドアは祥子の体温と常連登録の一致でガラスが一瞬で開いた、まるで消えるみたいに。
「あ、祥子来た、そうなの、マジなの」
私が言うと、いつも祥子が座るイスがほのかに光り、祥子のお尻がトンとイスに付くと、注文ディスプレイがテーブルに浮かぶ。私たちは、青リンゴサワーと餃子追加と言い、ディスプレイを消した。
「あらぁ祥子ちゃん、また大人っぽくなってー」
店主のおばあちゃんがカウンターの向こうで言う。
「あ、おばあちゃんどうもー。カラダの調子大丈夫? お店無理しないでね」
「ありがとうねぇ、大丈夫よー。作るだけだもの」
そう言って、作った餃子の皿を台に乗せると、ロボット台が私たちのテーブルまで運んでくる。
「はいどうもー」
「あ、祥子またロボットに話しかけてる」
「あ、マジか、またか、職場の新人ちゃんにも言われる。ウケますね、とか」
「失礼じゃない?」
「いいのそれ」
私と恵美子が言うと、まぁまぁよくあるから、と祥子が言ってビールを持って乾杯した。
「それより!マジなのかな、竜太の結婚」
「マジマジ、このあと来るから色々聞かないと。どうする?何聞く?」
私がおそるおそる言うと、ね、と祥子と恵美子が目を合わせた。
「だって、あれでしょ。ほら、ロボットなんでしょ?」
「ロボットって言うと怒るらしいよ。AIでしょ?」
私は、苦い顔を作って、うん、と頷いた。海外の映画の女優が嫌そうな反応の時の顔を頭に浮かべた。
「そりゃ今や人口の何%かはAIだから、そういうことも聞いたことあるけど、まさか竜太がって感じ」
「ねー。どうするのよ、このアローン会。独身会なのに既婚者がでちゃう
じゃん」
そう言う恵美子に、祥子が、そこじゃないよ!とツッコみ、私はいつも通り鼻で笑う。こんなやりとりを竜太を含めた5人で大学生の頃から20年やってきた。
ロボット台が野菜炒めを運んできて、内蔵されたスピーカーから流暢に餃子は?と聞いてくる。私たちはあたりまえのように竜太が来たタイミングでと答えた。ロボットと会話をするのももう慣れていた。
「AIと結婚してる人ほかに身近にいる?」