「もう、ほんとつらい。死にたい。死んでしまいたい……」
居酒屋のテーブルに突っ伏して、キクコは今にも泣き出さんばかりの声をあげた。
「キクコさぁ……。もう飲み過ぎだよ。男なんてさ、他にいくらでもいるんだから」
向かいに座っている、親友のエリはキクコの頭をポンポンとたたきながら、キクコをなんとか励まそうとする。
「でも、あまりにもひどくない? よりによって、誕生日の一週間前に、『他に好きな人ができたから』なんてさあ。明日の誕生日、ひとりで過ごせっていうの?」
がばりと体を起こして、キクコは抗議した。「せっかく、一緒にテーマパークに行って、いろいろ楽しもう! って計画してたのにさ……」ぐじぐじとキクコは文句を言い続けている。彼氏と別れたのが悲しいのか、テーマパークに行けなくなったのが寂しいのか、一体どっちだろう? と、エリはあきれていたけれど、酔っぱらいの言うことだから仕方ないかと、小さく息を吐いた。
「まあ、私が一緒に行ってあげられたらいいんだけどねえ。こんなことになるとは思わず、明日はバイト入れちゃったし。……またさ、今度一緒に行こうよ」
エリがそう提案すると、キクコはこくんと頷いて「絶対だからね」と、念を押して、もう、何杯飲んだかも分からない生ビールに口をつけた。
エリに泣き言を聞いてもらえたからか、キクコは帰り道にはすこし気持ちが落ちついていた。もう、だいぶ前から、アイツとはダメだって分かってたのに……。気持ち、切り替えられるかな……。などと、ドロリドロリと煮詰まっている彼氏への未練を断ち切ることはできない。自宅に帰る気にもなれず、マンションまでの道を千鳥足でふらふらと歩いた。
自宅についたのは、もう深夜に近い時間だった。キクコは出先から帰ると、かならず郵便受けをチェックする。だいたい、郵便物が届くよりもピザやお寿司の宅配チラシや、チラリと目を通しただけですぐに捨ててしまうものしか入っていないのだけれど。今日も「水道トラブル、ご相談ください!」と、カエルのキャラクタが大きく描かれたチラシが目にとまり、キクコはふうっと小さなため息をついた。チラシを取り出そうとしたとき、キクコの指先には硬い何かが触れた。今日は一通、封筒が届けられていたようだった。
「誰からだろう?」
封筒の宛名書きにはキクコの名前はおろか、住所すら書かれていなかった。ただ、真っ白い封筒に『選ばれたあなただけに、お知らせいたします!』という文字が印字されていた。差出人は「九十九企画」と記されていた。一ミリにも満たない暑さの封筒は、ぴっちりときれいに糊付けをされており、まるで硬く閉じた二枚貝のように厳重だった。
部屋に入るなり、キクコはその封筒を開けてみることにした。すこし、気味が悪いようにも感じられたけれど、その日のキクコは、何もかもに対して投げやりな気持ちが強かった。中身を破らないように、封筒の端をびりびりと破る。中には案内文が書かれたカードと、チケットのようなものが入っていた。キクコはカードを封筒から取り出し、なにがかかれているのか目を通してみることにした。