記録的な吹雪の日、突然ひとりの女が部屋に現れた。女がふぅっと息を吹きかけると、ねむっていたパパの顔がみるみるうちに青ざめていって、死んだ。女は次の冬にも部屋にやってきてパパを殺した。そして僕はお金目当てで女と暮らしはじめて、ある朝起きるとバケツのなかに水がたまっていた。
第二回ブックショートアワード大賞作品『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』(著者:大前粟生)をテーマにした座談会を開催。参加してくれた女性4名に、作品を読んでいただいた感想から「恋愛/結婚とお金」についてまで、赤裸々に語っていただきました。リアルな声満載の覆面トークです!
あい/ 都市銀行勤務・30代女性・独身
ゆか/レコード会社勤務・30代女性・独身
まさみ/フードコーディネーター・30代女性・独身
ようこ/消費財メーカー勤務・30代女性・独身
ユキオと“パパ”
まさみ 男の子と“パパ”の関係が強烈だった。
ゆか 私は最初、自分のこと「僕」って呼ぶ女の子だと思った。メンヘラかって(笑)。でも、途中で主人公が男の子って気づいて。
まさみ 最初は本当のお父さんだと思いません?
ゆか うんうん。
ようこ 私は、パパと同じ布団で寝ているからユキオが小さな男の子だと思った。でも、途中でそういう“パパ”だとわかって(笑)。雪女って、“パパ”だったから殺したわけじゃん? もし相手が女の人だったら殺さなかったんじゃないかな。男対男だから、雪女が勘違いしたんじゃないかって。
あい ユキは、純粋だから“パパ”っていう概念を知らない。
ゆか “パパ”がいるなんて、ユキオは相当カッコいいんだろうなって思った。
あい 可愛いパンツを履いたら5000円ですよ(笑)。どんなパンツだよって(笑)。知らない世界です。
ようこ ユキオが生活していけるくらいのお金を渡すんだから、“パパ”は相当お金持ちだよね。
ゆか しかも、相当偏っている。きっと社会的な地位もあって、家に帰れば奥さんも子供もいる。だけど、隠れてユキオにお金を払って、表に出せない欲望を発散してるっていう。
ユキオの恋愛感情
ゆか 私は、ユキが溶けてお水になった時に、ユキオがそれを飲もうとするのが、あんまり理解できなかった。
あい 供養じゃない? なんとなく飲むのはわかる。
まさみ 一体になりたいっていう究極の愛情表現みたいな。
あい 大切な人が亡くなったときって意外と取り乱したりせず淡々としているような気がする。ユキのことは好きだったんだろうけど、ずっとこのままではいられないなっていう覚悟はあったんじゃないかな。
ようこ 私は、ユキオからユキへの愛はあまり感じなかった。
ゆか 一緒に過ごすうちに、いて当たり前の存在になったような気はする。
ようこ 基本的にユキオは受け身だから。“パパ”がいなくなって、代わりにユキがきたから流されて一緒に暮らすみたいな。
まさみ それがたまたま同い年くらいの女の子だったっていう。
ゆか 女版の“パパ”がユキ。
あい 私は、ユキが夏に窓から出ようとしたのを止めた場面で愛情を感じた。焦って止めて。
まさみ それは愛ともとれるし、お金のためともとれる。
あい そっかそっか。でも、私は愛情のように感じたなぁ。必死だったから。
ようこ 人によって全然違うね。
まさみ とにかくユキオくんは人生冷めてるよね。
あい 自分が一番好きなんじゃないかな。ユキのことも好きだけど。
まさみ ユキオくんは、あんまり幸せを求めるタイプじゃないよね。楽をして生きていければいいやっていう投げやりな感じがある。
ユキオの涙の意味
ようこ 私は、最後の場面がちょっとわからなかった。
まさみ 私も。それ以外のところは読みやすくて面白かったけど。
あい 私も疑問は一番最後。何度も読んだんですけどちょっと……。
ゆか 冬なのに夏になって。
あい 扉を開けたらぼやけた天井。倒れたのかなって思った。死んじゃったのかなって。でも、扉開けて天井の意味がわからなくて。
ようこ 私は、天井って雲のことなのかなって思った。
まさみ 難しかった。ユキオがやる気のない男子だったから、ユキは復活しなかったんじゃないかって思ったり。
ゆか 天井がぼやけてたってことは、泣いてたってことなのかな?
あい ああ、たしかに。
まさみ そうすると、最後の「お金欲しい」っていうユキオのセリフは、ユキに戻って来て欲しいってことだったんじゃない?
ようこ なるほど。
ゆか 深い。
恋愛とお金
まさみ 男の人がお金を持っているかどうかって、年齢にもよるよね。高校生のときだと、バイトでいくら稼いでるの? とはならないし。ただ、結婚が念頭にあると、年収とか気になってくるかも。専業主婦でいいのか、私も働かなきゃいけないのかとか。
ゆか 私、高校生のとき、実家がお金持ちの人と付き合ったことがあって。そのときはテンション上がったかも。ラッキーって(笑)。
ようこ でも高校生だから、あんまり関係なくない?
ゆか そうだけど、高校生で考えも浅いから、とにかく玉の輿に乗りたいって思ってて(笑)。女子校だったから、お金持ちの家の男の子と付き合うとみんなも自慢してた。ただ、年齢を重ねて変わってきたかも。
あい 今は、彼の実家が会社経営していたりするとプレッシャーになるよね。
ゆか 支えなきゃとか。彼の人生に入っていかなきゃいけない。
ようこ 支えることによって自分が満足できればいいと思うけど、自分にもやりたいことがあったら難しいかもね。でも、逆に、お金が全然ない自由な人と結婚して、それぞれが夢を目指す場合、子供が欲しくても気軽には産めないよね。
あい 私は経験上、すごく好きな人ができるとお金が減るんですよ。
ようこ 貢ぐの?
あい そう。貢ぎ癖があって。これが欲しいって言われたら買ってあげたくなっちゃう。クリスマスプレゼントとかも、高いもの買ってあげたくなっちゃうし。お返しは本当にいらない。好きだったらそれでも嫌じゃない。
ゆか わかる。
まさみ 私は、それはちょっと……。
あい でも、それは本当に好きな人の場合。逆に、そうでもないけどまあ付き合うかっていう時には、お金をすごく気にしちゃう。割り勘とか嫌なんですよ。学生の時はずっと割り勘だったけど、この歳になったらもう出して欲しい。見栄を張ってでも女の子には出させないっていう男の人がいい。
ゆか うん。高級なお店じゃなくてもいいからおごってほしい。
あい 年上の男の人に話を聞くと、女の子に財布出させるのは恥ずかしいって言う人多いですよね。
ようこ 私は、特別な日だけおごってもらえればと思うけど、たしかに年上だと、自分が出すことが失礼かなって思っちゃう。
あい 私は年上には絶対におごってもらいたい。財布出すそぶりはみせるけど。
ゆか でも、奢られると次に自分から誘いづらくないですか? だから、また会いたい人なら、千円でも出させてほしい。でも、これっきりの人には払ってほしいかも。
ようこ あと、相手がお店を決めてくれたときは出して欲しいかな。
ゆか そういう時は、そろそろお会計かなっていうタイミングでトイレ行ったりね。でも、戻ってきて、お会計終わってないとちょっとこの人駄目だなって(笑)。
ようこ おごるときのスマートさも必要だよね。
まさみ でも、そういうスマートな人ってもう相手がいる(笑)。
あい そうそう。
ゆか だから、年下を攻めたらいいと思う。まだ売れてないから。
ようこ 年上でも、バツつけばいるから大丈夫!
まさみ 私は、バツはちょっと……。形式だけでも教会で誓っているのが嫌だ。
ゆか 私は全然大丈夫。
ようこ 私も大丈夫。
結婚とお金
まさみ 私が付き合う時に気にすることは、気が合うかどうか。趣味が同じとか、笑いのポイントが同じとか。結婚は、お金を重視します。あと、職業。正社員がいい。年収数千万とかいう理想はなくて、平均くらいであれば。あと、バツなしがいいです。
あい 私、結婚願望は全然ないんですけど、お金を持ってる人とだったらしてもいいかも。結婚して専業主婦になりたい。つまり、結婚はお金だと思う。
ようこ 私、一回婚約したことがあるんですけど、その相手が夢追い人だったんです(笑)。そのときは、お金よりも、その人が成功することが私の幸せだと思っていた。
まさみ 大好きだったんだね。
ようこ その人とは子供を作るのは無理だろうなって思った。だけど、彼と二人ならいいやって。経済的にも、私が支えてあげようと決めていたし。結局、別の理由でダメになってしまいましたが……。多分、その婚約相手とは、恋愛の延長線上だったんですよね。“俺feat.私”な感じで。だから、今は、結婚するなら、“with”の関係で頑張れる人がいいなと思います。対等な関係が築ける人と。
ゆか 私は、結婚するなら、既にある程度自立してて幸せを感じている人と結婚したい。だって、人のこと幸せにするって大変じゃないですか。
ようこ へえ。
ゆか それで、付き合うんだったらお互いに自由な関係がいいです。たとえば、今日遊びに行くって約束したり、家に呼ばれて行って、いなくてもいいんです。それくらい自由な、雑な感じがよくて。
まさみ それ、約束が守れない人でしょ?
あい でも、私以外に優先するものがあったんだったらそれでもいい。
まさみ 他の女の子と遊びに行っていても?
ゆか しょうがない。
ようこ 都合のいい女じゃん。
ゆか それでもいいやって。向こうにとってメリットのある人間になりたい。デメリットになりたくはない。
あい 私は、恋愛だと見た目は全然関係なくて、性格かな。優しい人が好き。うわっていう顔でも(笑)、性格が合えばその顔が好きになれる。
まさみ 私もそうかも。
あい 結婚は、願望がないせいか、できればお金持ちがいいなって思います。でも、もし自分が本当に好きな人が現れたら勢いでしちゃうかも。人にとられたくないから、書類で縛るというか(笑)。でも、結婚に興味ないんですよ。
まさみ 結婚に幸せのイメージない?
あい うん。ないかも。でも、それを乗り越えるひとがいたら、お金関係なくしちゃうかも。
ようこ そっか。でも、結婚はタイミングだっていうから、これから先どうなるかわかんないよね。
全員 うんうん。
記録的な吹雪の日、突然ひとりの女が部屋に現れた。女がふぅっと息を吹きかけると、ねむっていたパパの顔がみるみるうちに青ざめていって、死んだ。女は次の冬にも部屋にやってきてパパを殺した。そして僕はお金目当てで女と暮らしはじめて、ある朝起きるとバケツのなかに水がたまっていた。