小説

『カラスの真実』長月竜胆(『小ガラスと大ガラス』)

ツギクルバナー

 街道沿いに立ち並ぶ大きな木の一本に、一羽のカラスがとまっていた。カラスは自分のことが大好きである。今日も自慢の羽をくちばしで器用に整えると、ご機嫌に「カァーッ」と歌う。
 ちょうどその時、カラスの真下を通りかかった二人組の旅人がいた。カラスの鳴き声を聞いた一人は、落胆した様子でつぶやく。
「ああ、これから旅立とうという時に縁起が悪いな……」
 この時代、人々はまだ信心深く、伝承や言い伝えの類を本気にしていたのである。不吉とされるカラスの鳴き声に、男はひどく不満そうだった。ところが、もう一人の方は、木の上にカラスの姿を見つけると、笑いながら言う。
「心配ないさ。よく見てみろよ。あれはただのカラスだ。そこらの小鳥と何ら変わらないよ」
 うながされて見上げた男も、カラスの姿を確認すると、途端に態度を変え、安心したように言った。
「何だ、そうか。落ち込んで損をしたな。全くまぎらわしい奴だ」
 二人は笑い合うと、何事もなかったように旅立って行った。
 どういうわけかと言うと、吉凶を示す運勢の鳥として人々から特別視されるのは、カラスはカラスでも“大ガラス”と呼ばれる種類であって、いわゆるカラスではないのである。小さな普通のカラスがどれだけ鳴いたところで、人々にとって何ら意味はないのだ。
 そういうわけで、旅人たちはカラスを笑っていったのだが、これはカラスにとって大変な屈辱であった。何せ、自分のことが大好きで自尊心が強いカラスのこと。取るに足らない存在として人間に見下されたことが悔しくて仕方ない。そこでカラスは、人間を見返すためにも、自分という存在をアピールして回ろうと思い立った。
 人々の目に触れるように、いつもより低い高さを飛びながら、街中を大声で鳴いて回るカラス。そこらの小鳥と変わらないなどと言われるのは、誰も自分の本当の姿を知らないからだ。この美しい姿や声をちゃんと知ってもらえれば、誰もが振り向き、心奪われるに決まっている。自分に自信のあるカラスは、そう考えて疑わなかった。
 ところが現実には、どこへ行っても、どれだけ声を張り上げても、全く相手にされる様子はない。気付いて見上げる者はいても、やはり皆、ただのカラスだと知った途端、つまらなそうに戻って行ってしまうのだ。
 カラスはこの時ようやく思い知った。肩書き以前に、自身の魅力はまるで通用しないものであるということを。人々にとって、カラスの自慢の声は些細な騒音でしかなく、その自慢の姿も色味のない退屈なものでしかなかったのである。カラスの自尊心は益々傷付けられるばかりだった。
 すっかり落ち込んだ様子のカラスが屋根の上でうなだれていると、ちょうどそこに大ガラスが飛んできた。カラスは大ガラスに気付くと、恨めしそうに愚痴をこぼす。

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