「まあさ、早く学校こいって話だよ」
小菅がそう言い残し、二人は部屋を出て行った。
それから数日後、オサムは学校に復帰することになった。久々にオサムが来ると、飛田も小菅も喜んだ。オサムは教室に入るなり、真野の姿を探した。前の方の席で別の女子生徒と話をする真野を眺めていると、目が合った。目が合うと真野はにっこりと笑顔を見せ、すぐに恥ずかしそうに眼を逸らした。オサムは顔が赤くなった。それを見ていた飛田と小菅がオサムを冷やかす。冷やかされて、二人の肩を叩いて黙らせようとしむきになるオサムが面白くて、二人は余計に笑う。日常が戻ってきているようだった。オサムは日常に戻ってこれたのだと感じていた。それからまた教室内をぐるりと見渡しているうちに、ぽっかりと空いた机を見つけるのである。園ちゃんの席だった。園ちゃんの席を見ると、オサムの手足は震えた。手足を震わせながら失意の目でオサムを見つめた園ちゃんが、頭の中から離れないのである。
それでも学校生活は進んでいき、真野のオサムに対する恋心も、オサムの真野に対する恋心も徐々に高まりつつあった。しかしまだ二人は結ばれていなかった。二人はありきたりな中学生のように、好いているからこそ、仲良く話すことすらできなかったのである。それでも、授業中や休憩時間など、目が合えば心はときめいた。
そうしていよいよ二人の思いが交わる瞬間が訪れる。卒業式の日、真野から呼ばれ、オサムは屋上にやってきた。緊張しながら屋上にやってくると、真野が空を見上げたり校庭のグラウンドを眺めたりして待っている姿が見えた。愛おしかった。
真野はオサムを見つけると手を振って、こっちこっちというように手招きした。オサムは照れながらも、なるべく気取ったように真野の方へゆっくりと歩いて行く。
面と面で向き合うと、沈黙が流れる。意を決したように、真野が口をひらく。
「ねえね、オサム君。私たち、結局卒業まで仲良くなれないままだったね」
「うん。でもね、俺はずっと仲良くしたかった」
「ほんと? うれしい」
と言って満面の笑みを浮かべる真野を見ながら、オサムも嬉しくてたまらない。
「ほんとだよ。ずっと真野さんのこと見てたし」
「知ってる。私も見てたから……」
オサムはこれ以上の幸せはないと思った。しかし幸せに思いながら、同時にある考えが脳裏に浮かんで、離れなくなっていた。真野がまた口を開こうとしている。オサムには真野が何を言おうとしているのかが分かる。それでも脳内では、園ちゃんのあの顔が、鮮明に蘇ってくる。許してもらうなら、今しかない……
「私ね、オサム君のことが……す……」
とまで言ったところで、真野の動きが止まった。
オサムの股間あたりから、生温かい液体が染みだし、屋上のコンクリートの上を流れていくのが見えた。
「えっ」と絶句した真野の声が、空に響いて消える。