小説

『夢千百十一夜』わそら(『夢十夜』)

「ジューンベリーって名前の木なのよ。」
ばあちゃんが嬉しそうにそういった。
「花は地味よね~。おじいちゃんももう少しきれいな花を選んでくれたらよかったのに。」
そんな母親の言葉にばあちゃんは庭の木を優しげな瞳で見た。
「そう?ハイカラな名前で、花もちゃんと見ればとても綺麗で、実もとても美味しいわよ。」
「はいはい。おばあちゃんはおじいちゃんだいすきだったものね。」
「ええ。今でも大好きですよ。」
そういってばあちゃんは笑顔で顔をほころばせた。

(花は地味でも実は美味しいってじいさんの人生みたいだなぁ)
縁側で木を見ながらしみじみ思う。
じいさんが蒔いた種は花を咲かせて実をつけた。
きっとじいさんは俺の夢を応援してくれてる。
『花は咲く』と夢の中でじいさんは俺を見て言った。
俺は夢を諦めない。
じいさんの植えた木のように花を咲かせて実を結んでみせる。
その決意も込めて、俺はじいさんの遺影に向かってチーンと鈴を鳴らした。

1 2 3 4