小説

『終活に忙しいのです』サクラギコウ(『死ぬなら、今』)

と返ってくる。だが安心したのもつかの間、渡した現金は小切手に代えてあるという。純一郎は驚いて
「それは駄目だ。船頭のチェックが入る!」
「大丈夫小切手は本物だ、安心して」
と息子たち。

 3か月が過ぎた。純一郎に何の異変も起こらなかった。4か月が過ぎた。何も起こらない。落ち着かない純一郎は息子たちに尋ねる。
「ところで、私はいったいどんな理由で死ぬんだい?」
 息子たちは純一郎に精密検査を進めた。結果どこも悪いところはなかった。節制した粗食を続けているため、血液や血圧、臓器の異常は見当たらなかった。元気そのもので100まで生きると言われた。
 100まで生きると言われて慌てたのは純一郎だ。貯金はほとんど使い果たしてしまった。100歳になる頃には小切手は不渡りになっているだろう。怒った船頭が閻魔様に地獄行きを勧めるかもしれない。どうしたものかと考えた。
「そうだ、また貯めればいいのだ」
 純一郎は再び、節約生活と金貸し業を再開した。

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