小説

『初雪、ではない。』田中慧【「20」にまつわる物語】

 長女の初めての彼氏が部長の息子ではなく、見ず知らずの男だったら私はどうなっていただろうか。父親とはかくあるべきとの念が私を苦しめただろうか。
 釣れたのはエイだった。毒を持っているかもしれない尾ひれに注意しつつ針から外し、リリースする。手袋にエイの体液がこびりついて取れなくなってしまった。
 この手袋をするたび、私はこの日のことを思い出すだろう。

 長女と部長の息子は今日、遊園地に行っている。
 二人とも、風邪を引かないか心配だ。

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