小説

『Born to Lose』広瀬厚氏【「20」にまつわる物語】

 20日後、ジョニー•サンダースはニューオリンズのホテルで、ドラッグとアルコールのオーバードーズにより死亡した。享年38才。いつ死んでもおかしくないと言われていた奴にとって、それは遅いのか早いのか? そんなことはどうでもいいけれど、とにかくまたひとり、ロッカーがこの世を去った。

 光陰矢の如し日月は過ぎていった。結局俺は新しいバンドを組まなかった。そのうちロックンロールの熱も冷めた。あれ以来すっかり負け癖が身についた。うだつ上がらず独り身で、その日その日を暮らしていたら、とっくに奴が亡くなった38才を過ぎていた。
 ロックンロールの熱が冷めた後、俺は掘り下げてブルースにたどり着いた。毎晩ひとり部屋のなか、ギターを鳴らし〈Born to Lose〉な毎日を唸り歌った。負けっぱなしな俺だけれど、毎夜毎夜の積み重ねが魂の層をなし、このところブルースが宿りだした。若くはないけれどブルースならば… 負けを活かして、負けっぱなしな生活から、やっとオサラバできるかも知れない。
 そう思っている矢先、ネットで音楽関連のちょっとしたニュースを目にした。
 ジョニー・サンダースが死亡した20日前、1991年4月3日、川崎クラブ・チッタで行われたライヴを収録した、2CD+DVDのライヴ作品『Live in Japan』が日本発売決定。とある。日本盤は12月20日の発売らしい。
 俺のなかで時間がさかのぼった。あの時分の出来事が鮮明に胸によみがえった。しばし思い出の世界にふけった。正直な話今となってはジョニー•サンダースにそれほど興味はないけれど、奴がいなければブルースとも出会えなかったかも知れない。きっとこれもなにかの縁だ。俺は、行くはずで行けなかった、あの日のライブ作品を購入することに決めた。

1 2 3 4 5