小説

『←2020』西荻麦

 祭りだ、祭りだってバカの一つ覚えみたいに騒いでたから、どっかの国に攻撃されたんじゃねえの。
まず俺が思ったのはそんなことだった。そんなふうにはしゃいでいいのはサブちゃんくらいだ。あのくらい大御所なら、何をやったって許される雰囲気がある。例えば不倫だって、それがダブルだって問題ないだろう。人によるんだ。
 だけど置かれた状況をきちんと把握していくと、そういうレベルでは収まらない、もっと謎めいた、もっと巨大な力が働いたんじゃねえか。そんなふうに思う。
何だか映画みたいだ。地球に残された、ただ一人の人間。コンビニの前で蛾みたいに群がって、くたびれたおっさんをからかって小遣い稼ぎするだけだった俺が映画の主人公。興奮。高揚。下半身がうずく。
 具体的な欲求に体が反応してしまうと、俺はさっさと主人公役を降りたくなった。一人じゃあ、誰かとつながれない。といっても、いつぞやの絆、絆ってバカの一つ覚えみたいに騒いでたようなもんじゃなく、ちゃんと体と体でつながりたい。
 何だかきれいごとばかり好きなこの国が、俺にはもともと性に合わなかった。いっそのこと、これを機に海を越えてやるか、と思う。誰もいないんなら、金がなくてもどこへだって行ける。そう決心して駅までたどり着いて、無人の電車を見てから気づく。誰もいないんなら、金があってもどこへも行けないのだ。
 やっぱり絆かよ。くさくさした気持ちで、俺は結局いつものコンビニへ向かう。共にカツアゲをして、バカ笑いしていたやつらももういない。
 ろくに買い物もしなかった店内へ入ろうとしたところで、紙切れが落ちているのが目に留まった。何気なく斜め読みしてから、俺はそれをつかみとった。もう一度、しっかりと読む。
俺以外にも生き残っているやつらがいる。そいつらはどうにかこの最悪な未来を変えようと、過去へ助けを求めているようだ。
【誰か、話したいです】
 とりとめのない文章の中、その一文は切実なようであり、やたらとのんきにも見えた。そうか、絆ってのは多分、ずいぶんと自分本位なもんなんだ。
 日付がわからないまま、バックナンバーと化した成人誌を読みふける。欲求は定期的に吐きだしてやらないと、いとも簡単に誰かを傷つけてしまう。少なくとも、俺は。

                    ○

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