川辺にある石を持ち、川に向かって投げた。
「昔、君とここでこうやって石を投げて遊んだことがある」
セーラー服に白い肌、髪はショートで、素足でローファーを履いているその少女はつぶやいた。
「本当に・・・覚えてないの?」
「ごめん。ここ数年家を出てないし、親以外誰とも会ってなかったから」
「しょうがないな。宇佐美よ。う・さ・み」
「うさみ?名前は?」
「だから、それが名前なの!もう相変わらず、忘れやすいんだから」
頬を膨らませ、僕の隣で体育座りした。
「ごめん。」
何とか思い出そうと、頭を掻いた。でもこれだけは聞きたいと思い、質問する。
「君は、どうして僕を助けたの?」
「決まっているじゃない。君、いつもあんな感じで虐められていたでしょ。」
「でも、いくら何でも殺すことないだろ。しかも、勝手に家燃やして!おかげで住む場所がなくなったよ」
「そうだね」
「そうだねって・・」
「あのまま死体を残しておけばよかったのかな?」
「いや、それは」
「じゃあ君はずっとあそこにいたかったの?」
「正直、出たかった」
「ならいいじゃない。君はやっと解放されたんだから」
「そうかもしれないけど・・・でも」
「あっ、消防車が来た。それに警察も」
サイレンの音が鳴り響く。
「もし、誰かにばれたら、間違いなく疑われるのは君。証拠を残したくなかったら、隠すために、抹消する。そうでしょ。だから燃やしたの。」
とにかく僕は助かった。ようやく家から解放された。彼女のおかげで。
僕と宇佐美さんは遠くで煙と炎を放つ家を眺める。キャンプファイヤーを見ているように。
宇佐美さんは足元にある小石を持ち、音を立てる。
「かちかち山。知っているでしょ。」
「ウサギが、タヌキの背中に火をつける童話でしょ」
「そう。火打石を使ってね。」